本書の著者の素晴らしいのは、こうした判断の境目に来たときに、自らの自然(山)観察を頼りにして、多少は貧しい、もしくは、見栄えは悪いかもしれないが、これなら暮らしてゆける、もしくは他に頼らずに生きていける、という選択肢をとって、数年の試行錯誤をし続けた結果、結果的に持続可能な発展のモデルになってしまった、というところにある。
こうした成功話は、経営者の書籍にもよく見られるが、本書の特徴はなにせ自然が相手なので、著者の筆致にもある種の「ゆとり」が感じられるところである。但し、成功話によくあるように、あくまでこうした本人による著作は、本人が当たり前と思って書いてないことや、本人が意識しなかったところで支えられていた、という側面もあるので、こうした部分は、他の著作で補う方がいいかもしれない。
しかし、そうであるにせよ、軽はずみに「時代」や「みんな」を語って、自らの観察眼と判断と勇気を譲るなかれ、ということを確認するだけであっても、本書は読者に推薦するに値するだろうと思われた。