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人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)

価格: ¥546
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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悪意を持った権力の暴走 ★★★★★
悪意を持った権力の暴走する様に恐ろしさを感じました。

主人公の星一は、国のためを思い様々な新しい事業に取り組みます。
しかし、同業他社のように官吏に対し迎合することがないことなどから
検察から言いがかりのような取り調べを再三受けます。
また、官吏の圧力から新聞を通して画一的に誤った情報(デマ)を流され
事業を妨害されます。
そんな中でも星は懸命に真摯に自分の正しいと考える行動を取り続けます。

現在のようにインターネットがない、大正の時代。
今以上に権力は一部に集中しています。
その権力が暴走すると大変恐ろしい。

情報を正しく見極めるには、
「正しいことは何か」ということを基準に考えなければならないと思いました。
また、人に後ろ指をさされない生き方をした星一を自分も見習いたいと思いました。
穏やかな心と激しい怒りを表している ★★★★★
私は星新一さんのショート作品をよく読んでいたのですが、
父親の伝記的小説があることを最近になって知り、読むにいたりました。

アメリカで苦学して大学を出て、帰国して盟友と共に日本を盛り立てるべく仕事を起こす。
欧米で独占的に扱っていた薬剤を自分たちで作れるようにして発展を促し、社員や投資者にはケアをしっかりする。
一見極めて理想的な会社を営々と育てていきます。
すさまじい情熱と時間を傾けて著しい成長を成し遂げたのです。
しかし、官僚や同業者、禿鷹のようにむらがる者たち、力におもねるマスコミなどによって徐々に窮地に追いやられてしまいます。

善を為すことではなく官僚が求めたものは自分たちへの従属です。
マスコミが求めたものはさらなる力による庇護、そして社会を動かすという実感、甘い欲望でした。

正義とは何なのでしょう。そのように感じました。
大正時代を主に描いている作品ですが、現代においても悪い意味で何も変わっていません。
権力を振りかざし、それに従わない者たちは理不尽なまでにねじ伏せるのです。
マスコミも情報伝達が発展した現在ですら知る権利を満たさず、報道しない自由を謳歌します。
作中での星氏もかなりの力を有していたと思われます。描写の差異もあるでしょうが、使い方が異なりすぎる。
合理的、理想的な活動を行おうとしたのですね。それは日本で許されることではないということでしょうか。

星新一さんの淡々とした、静かな目線。それによりこのような社会である日本への無念も描かれているように思えます。
百年近く昔を舞台にしているのに現在において問題が全く解決されていない、
すなわち今でも共感できるし、日本社会を考える人なら一読に値するものでしょう。
そこのけそこのけ横車が通る ★★★★★
かつて、ノーベル賞学者が、「日本人は個々のポテンシャルでは欧米に勝っても、システムで負けてしまう。」
という趣旨のことを言っていた。米国でそんなシステムを学び、体現しようとした、清々とした人物が、
過去にもいたのだ。一本筋の通った、当時としてはプリンシプルある数少ない日本人実業家である星一の物語。
その生き様に学ぶところは大きい。
懐柔策によって動き始めた巨大な横車を前に、最初は小さく、そして最後にはその会社の息の根を止めるほどに
大きな影響を及ぼす。苦心して正論で対抗するも、その声むなしく「必殺、たらいまわし。」の前になすすべは絶たれてゆく。
そんな最中、彼はどんな気持ちだったろう。その無念の気持ちが、息子の筆に乗ってこの作品として結実させたのかもしれない。
高い志とは何か?考えさせてくれる良作である。
この頃記者クラブはあったんだろうか? ★★★★★
本宮ひろ志の「猛き黄金の国」の三菱・岩崎弥太郎氏とは別のニュアンスで官と戦った星一氏の伝記(伝記小説?)です。
官の横暴は誰もが読み取れますが、マスコミ(新聞)のスタンスに注目すると面白いんじゃないでしょうか。
従業員一同がお金を出し合って意見広告を出しても、その後すぐに官発表の記事を掲載してしまう箇所がありました。
以前誰かが
「警察権力の最大のものは、捜査権でも逮捕権でもない、事件性の有無の判断だ」
と言っていました。
俗に第四の権力と言われているマスコミの権力は、報道性の有無の決定権でしょう。現場ではなくデスクが握っているのかな?もしそうなら旧日本陸軍の悪弊そっくりだ。
この当時の新聞が官と癒着していたのかどうかは調べてみないとわかりませんが、新聞が星製薬叩きに乗った理由が知りたいです。
小説としてはすばらしい ★★★★★
 この話を読んだのは、まだ10代の頃だった。星新一の本はほとんど読破しているが、この作品を読んだときの感動は今も忘れない。とても印象的な小説だった。ちなみに、星新一の長編小説の中で、私的には1・2を争う名作であると思う。
 彼の父の生涯を綴った物語だが、事実関係を追いかけるだけになりがちのこの手の作品で、十分にドラマチックな、読み応えのある小説として仕上げられている。だから、決して読者を飽きさせない。のみならず、当時の世相や時代背景をわかりやすく、リアルに表現し、あたかも自分がその時代に生きているかの如く浮かび上がらせてくれている。さすがに星新一である。
 なかでも、星一と野口英夫との交流は、同じように身体に障害を持った人間同士の深い心のつながりを感じさせ感動的だし、星が己の才覚と人脈を駆使して、一代で星製薬会社をたちあげ、日本で初めてのモルヒネ精製を実現していく前半から、軍を敵に回し、官僚の圧力に追いつめられていく後半、そして、最後に彼が漏らす言葉までの流れは、読む者の心をわしづかみせずにはおれないだろう。
 但し、ここに書かれている星一像はあくまで彼の一面である。
 実は、個人的に星一の消息を、別の関係から耳にするチャンスを得たことがあるのだが、そこで語られた彼の姿は、この物語とはだいぶ違っていた。ちょうど、偉人として語られることの多かった野口英夫が、実は、それとは正反対の私生活を持っていたという話とよく似ていて、二人が仲が良かったという本書の記述に、私の中では、逆にリアリティーを持たせてしまっている。
 だからこの作品は、ショートショートを確立した、日本を代表する小説家星新一という人物が、愛する父への思いを結実させた物語として読んだ方がいいだろう。そう言う視点で素直に読む方がより感動できると思う。
 史実はともあれ、それでもこの小説は、一読の価値がある名作である。