現実から「本質」を抽象化しようとする作業
★★★★★
「この本には、戦略の論理は書いてあるが、戦略のつくり方のハウツウは書いていない
・・・いい戦略の「なに」と「なぜ」を書いた」
著者ははしがきでこのように述べています。ハウツウ本ではないのだ、と。
つまり、経営コンサルタントの本とは本質的に異なるアカデミックな本です。
ただ、テーマが「企業経営」というきわめて現実的なものなので、ハウツウ本と勘違いする人もいるでしょう。
経営はダイナミックなもので、不変の必勝戦略などありえません。
チームスポーツでいえば、どんなチームでも使える「必勝戦略」がないのと同じです。
一つのチームについてさえ、不変の常勝戦略などないでしょう。
相手も変われば、個々のメンバーの体調や体力も、条件も変わりますから。
しかし、強いチームに共通する一定の「何か」はあるのではないか、
同じように、成功している企業に共通する「何か」があるのではないか。
本書は、その「何か」をさまざまなケースから抽出しようとした試みです。
これを成功例のいいとこ取りだ、後講釈だと勘違いする人がいるかもしれません。
しかし、都合のいい成功例をちょちょいとつまんでそれらしく講釈した本ではありません。
背後には膨大なスタディがあるであろうことが感じとれます。
賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶと言いますが、
目に付いた事例から学ぶのは後者で、多くの事例研究から本質を抽出する作業は前者に属します。
両者の「いいとこ取り」はまったくの別物です。
本書で取り上げられた企業も永遠に成功し続けるわけではないでしょう。
本書は優れた「経営戦略」を論じた本であって、成功「企業」の予言本ではないからです。
成功した企業でも、「戦略的適合」がなくなれば落ち目になるのは当然で、
勘違いする人は、それを「外れた」と評するかもしれませんが、
企業経営がダイナミックある以上、当然の帰結です
肝心なのは現実から本質や論理を抽出しようとする目を養うことです。
不変の真理がどこかにあるはずだと思っている人にはお勧めしませんし、
目前の問題解決に即効性のある答えを求める人にもお勧めしません。
しかし、経営戦略の「考え方」を求める人には、これほどの良書は少ないと思います。
いい本だけど、学者の限界
★★★★☆
著者は日本を代表する経営学者。
でも、日本の経営学者なんて海外じゃあまり通用しませんが。
すばらしい本だと思うが、学者の本であるということを理解して読んでいただきたい。
それ以上を期待されると裏切られます。
後は、知的トレーニングだとか読めばトレーニングされて頭がよくなるみたいな売り方をしていますが、少なくともこの本はそんな本ではありません。
過去の知見を一般化して概念化しているだけですから。
事例が豊富で、戦略全般を概観できる
★★★★★
経営戦略の成功例を集めた事例集みたいな感じで、様々な戦略の具体例が述べられており、分かりやすく、経営戦略全体を概観できる。
これだけで戦略論が十分分かるわけではないが、読めば様々な知識が有機的に結びつく。
見えない資源(人・技術など)を強調して、組織設計の重要性をこれでもかと繰り返している点も、既存の戦略本と大きく異なる
実際に役立つ理論です
★★★★★
経営理論の解説本を望まれている方には向きません。タイトルに惹かれて手が出そうになりますが後悔することになります。そうではなくて、SWOT分析を使ってみたがしっくりこない、VRIOを使っても全体がみえてこない...と、リアル世界の分析に悩んでいる方にぴったりの本だと思います。戦略的意志決定の奥底にある「論理」の存在を意識させてくれます。
誉める人あればけなす人ありですが・・
★★★★★
私自身はこの本を読んで、物事を整理するとはこういうことか、という強烈な感動を覚えました。初版本はポーターの「競争の戦略」より前に書かれているということを考えても、間違いなく、RBVの古典として世界に誇れる良書です。
後講釈だろ、という批判をしている方も見えますが、そもそも社会科学の理論で「○○すれば、××になる」という「How toの結論」を求める姿勢の方は、死ぬまで本を読み続けても満足する答えは得られません。数理的に分析できそうな金融工学等の経済学分野でさえ、実社会では必ずしも理屈通り機能しません。無数の「専門家」が数々の理論で経済動向を論じていますが、結果は・・・。
企業の経営戦略を考えるにあたり、全体像を俯瞰するフレームワーク・指針としての「見えざる資産」や「オーバーエクステンション」「戦略的適合」という概念は、論理的思考に大いに役立つはずです。
本書の良否は、実際に自分で読んだ上で判断されることをオススメします。