陸奥を中心にした明治維新を描く
★★★★★
著者の大作評伝の上巻である。その生い立ちから西南戦争時に立志社系の陰謀事件に加担して逮捕、幽囚の身となり、出獄後外遊に旅立つまでを描く。陸奥宗光が著者の遠縁にあたり、かつ同じ外交官であったことから、かなり身びいきな評論になっていることは否めないが、陸奥が果たしてきた功績の割りに世の中の評価が低いという思いが著者にはあって致し方ない面もある。
内容は坂本竜馬の片腕としての海援隊での活躍、紀州藩をプロシア的軍事国家にして独立王国を築こうとした野望、薩長専制を痛撃する論文「日本人」の発表、土佐人との関わり、逮捕・牢獄生活と、山あり谷ありの大変興味深い内容で、明治維新を薩長側からしか見ていなかったことに気づかされる。最後の方の、著者も本筋からは外れるとことわっているが、自由民権運動に対する著者なりの評価は説得力があって読ませる。
内容自体はかなり濃く、原文をそのまま紹介してある部分もあるが、全体に易しく読みやすく書かれていて、一度読み出すと止められない魅力がある。