ですが、私はこれ程までにある意味で「弾きたい様に」弾いている、ノクターン(遺作)を聴いたことがありません。他の曲も同様です。
押しつけがましいほどにうたって、譜面より自分の耳を信じる。これ程演奏家らしいピアノ弾きがかつて居たでしょうか?シュピルマンと趣味が合えば、きっと感動出来るはずです。
もう一度言います。誰にでも勧められるCDではありません。でも、普段聴いているCDに「上手いと思う…けれど、何か物足りない」等と感じている方。そんな方には、是非一度このCDを聴いて欲しいと思います。
映画のサントラCDは、映画を観てなくても、原作を読んでなくても、純粋に音楽として聞いて、とてもすばらしかった。だがこのCDは、「戦場のピアニスト」に感銘を受けたなら、聞いても損はしないかな…という程度。曲目もあまりパッとしない-少なくとも私の好みには合わないし、シュピルマンの演奏も何だかぎこちなくて、さほど上手だとは思えない。”ノクターン嬰ハ短調”にしても、サントラCDのヤーノシュ・オレイニチャクの演奏の方がずっと洗練されている。
だが、友知人の演奏を聞くと、上手下手を別にして「あの人が弾いているのか」という一種独特の感慨を覚えるが、それと似たものを感じる。特に”ノクターン嬰ハ短調”は、これがあのシュピルマンが、廃墟となったワルシャワでホーゼンフェルト大尉に聞かせた演奏なのか…と思うと、感慨もひとしおである(もっともあの時は、シュピルマン自身もピアノも最悪のコンディションだったので、もっとずっとつたない演奏だったろうが)。
なお、シュピルマンがホーゼンフェルトの前で弾いた曲は、映画ではなぜか”バラード第一番ト短調”になっているが、実際には”ノクターン嬰ハ短調”である。そして、本CDには”バラード第一番ト短調”は収録されていない。念のため。