貴重な書。
★★★★★
石器時代から現代まで一冊丸ごと中央アジアを扱っている内容で、しかもこうして学術文庫に入り気軽に手にすることができるということで、中央アジアに興味がある人にとってはかなり有り難い本であると思う。
中央アジアの歴史と言えば、専門的に中央アジアを勉強している方以外にとっては、中国史を勉強する際にたびたび出てくる匈奴や突厥等の「異民族」、そして「西域」と呼ばれた地域に割と馴染みがあるぐらいではないだろうか。
評者もそんな感じで、学校で世界史を勉強している時から、中国を中心に考えた場合に「異民族」と呼ばれる人々の、ある種ミステリアスなイメージにとても興味を抱いていた。
本書の前半は、そういった人間の知的興味を十分に満足させてくれる内容であり、とても面白く読めた。
が、後半の近現代を扱う部分では、ヨーロッパ列強に侵略・支配される内容が前面に出てくるので、そういったミステリアスな感じはどうしても消えてしまい、あまり面白いものだと感じることはできなかった。
ただこれはもちろん非常に個人的な感覚であるので(笑)、中央アジアの近現代史の知識を求めてこの本を手に取ろうとする方もたくさんいるであろうし、冒頭にも書いた通り貴重な本であることに変わりは無い。
親本は1977年に出版されたようで、今となってはこの地域の研究はもっと進んでいるだろうが、文章に読みにくい箇所は無く、問題なくオススメできる一冊。
中央アジア研究の古典
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原著はやや古いものだが、現代でも十分通用する質の高い内容である。
中央アジアという地域はあまりなじみはないかもしれないが、東は中国、南はインド、西はギリシア、ペルシア、トルコ、北はロシア、モンゴルと接し、古代からさまざま文化、軍事勢力が群雄割拠し、カラフルな彩りを示してきた。世界史の縮図といってもよい密度の濃い歴史の舞台となってきた。
本書は先史時代から現代に至るまで、この時代の歴史を誠実に描く。アレクサンドロス大王、感の武帝、チンギスハン、様々な英雄が織り成す活劇が展開され、あきることはない。
この地域の歴史の入門書としては申し分ない。ただし、近年では特に現地の言語資料の解読や、歴史観、歴史理論の進展により、これらの地域の研究はさらに進歩が著しい。さらに研究を深めたいならば、杉山正明、岡田英弘といった名前や中央ユーラシアといったキーワードで最新の研究に進まれることを薦める。