読者の理解すら拒絶するほどの暗闇
★★★★★
ドイツ軍に捨てられたアウシュヴィッツ収容所から著者の故郷であるトリノに帰るまでの、長い旅がこの話の舞台となる。終戦間際(直後)の混乱期、著者は長旅の中でギリシア人をはじめとする多くの、様々な国の人たちと関わり合う。時には助け合い。時には騙し合いながら、幾多の苦難をひたすら耐え凌いでゆく。
話の舞台とは対照的に、ところどころで以外にも笑いを誘うような場面があり、読んでいて楽しくなるところも少なくない。特に終盤で見られるユーモア溢れる場面は、前半に書かれている多くの悲劇を一瞬ではあるが忘れさせてくれるほどであり、旅を続ける中で著者がだんだんと生を回復しつつあるのだな、と読者を和やかな気分にさせてくれる。だが、このユーモアこそが収容所で一度生を奪われた著者が渇望していた喜びであり、生なのだと思うと、改めて著者が置かれていた状況に震え上がる。
そして、物語は突然灯りが消されたかのように暗く静かに幕を閉じる。この部分に関しては、訳者により非常に丁寧な解説が付いているので割愛する。戦争について語ることすらできなくなるほどの、底の知れない恐ろしい闇が広がっている、とだけここでは書いておきたい。
帰還
★★★★★
ポーランドの、ナチスのユダヤ人収容所から解放されて、
イタリアの自宅につくまでの9ヶ月間。
作者は、もともとは、イタリア在住のユダヤ人化学者、作家。
イタリアへのナチス侵攻への、抵抗運動のため、イタリアでとらえられ、
ポーランドの収容所まで送られた。
排泄物でどろどろの収容所から、
大部分の同胞達が亡くなったなか、
若かったのか、運がよかったのか、瀕死状態で解放。
イタリアにまっすぐ帰れた訳ではなく、
解放後もあちこちの収容所に移動させられ、、
徒歩での移動だったり、列車に詰め込まれたり、、
ウクライナで足止めをくらったり。
毎日、とにかく大事なのは、食事。
その時々の仲間達と、どうやって、日々の糧を手に入れるか、、。
配給の魚を水で膨らまして売ってみたり、
野生?の馬を捕えて食べたり、、、
かなり苦しい生活なんだろうけれど、
食事の記述は、、本当に、生き生きとしていて、
解放されたんんだ、、自由なんだ、、という高揚感が伝わってくるようだった。
イタリアに近づくにつれて、、
逆に躍動感がなくなって、、
生き延びてしまったという感じを強く感じ初めていたのであろうか。