ナチス・ドイツによるユダヤ人の迫害は史実として知ってはいたものの、
実際に強制収容所を体験した人の手記を読んだのはこの本が初めて。
抑留者たちの想像を絶する凄惨な状況に、本を手にとった日の夜は眠れなかった。
ドイツ語を解さなかった著者が強制連行された収容所から無事生還できたのは、
本人の強い意志の力というよりも、ほとんど僥倖によるところが大きいと感じながら読み進めた。
それほど、著者の綴る文章は繊細で、
「髪も、名誉も、名前もなく、毎日殴られ、日ごとにきたならしくなり、目には、反逆心も、平安も、信仰の光も読み取れない」
抑留者の一人として、自らの人間性が破壊されていくのを深く自覚しすぎている。
そのとても耐えられそうもない極限状態の中で、
友人を得、今日を生き延びる術を身につけ、この体験を「他人」に語りたいと熱望し、生へ執着していく様は圧巻ですらある。
人というものは、かくも強くしぶといものなのだ。
その一人一人、顔も過去も人生も生活も家族もある人々を、物か何かのように「処理」し、
しかも、その遺体の骨や歯ですら「再利用」していたナチス・ドイツの非人間的な行為は決して許されるものではない。
同じような被害者が出ないために、また、いつの間にか自分が加害者の側に組み込まれていたというようなことがないためにも、必読の書だと思う。
かつてその歴史を体験した方々の話は貴重です。
しかし、その出来事が悲惨であればあるほど、遠い昔であればあるほど、その話を「直接」聞くことが難しくなります。
その点で本書のような『書籍』には、臨場感(不適切な言葉です)には欠けるものの、半永久的に存在できるという利点があります。
読んでいて胸が痛くなりますが、読んで絶対に後悔しません。
良い本です。お薦めします。