ルーツ・ロッカーから印象主義的ソングライターへ、そして音響の冒険家へ。ジョー・ヘンリーは、ジャンルや予想を超えた音楽的成長を見せている。本作のオープニング曲「Richard Pryor Addresses a Tearful Nation」は、ヘンリーのチューンとしては今まででもっとも大胆で、むせぶようなヴォーカルが悲喜劇のスピリットを伝える中、フリー・ジャズの巨人オーネット・コールマンのサキソフォーンのブレイクが悲痛きわまりない余韻を残す。このほか洗練されたムードの「Stop」（ヘンリーの義姉であるマドンナがこの曲をアレンジし、「Don't Tell Me」というタイトルでヒットさせた）、粘っこいファンク「Rough and Tumble」など、幅広い音楽性を持つアルバムとなっている。

   ヘンリーとクレイグ・ストリートによるプロダクションは過剰な作り込みを避けていて、ギタリストのマーク・リーボウ、ピアニストのブラッド・メルドー、ベーシストのミシェル・ンデゲオチェロによるインタープレイとほろ苦いストリング・アレンジに重心を置いている。「Mean Flower」にはヴァン・モリソンの、「Cold Enough to Cross」にはザ・バンドの影響が確認できるが、ヘンリーは古典主義者というより疲れ知らずの夢想家と呼ぶにふさわしいアーティストだ。（Don McLeese, Amazon.com）