ＮＨＫの美術番組として人気のある「美の壺」制作班による「五重塔」の魅力を紹介した本です。丁寧な取材に基づく記述ですから、ケレン味のない取り上げ方をしていますが、視点がユニークですから思わず手に取ってしまいます。

五重塔の魅力に魅かれて本書掲載の全国の塔をほとんど訪れています。その惹きつけられる魅力がどこにあるのかも理解できました。
１のツボ　軒の曲線に木の技を見よ、では木組みにおいて木のクセを見分けることの大切が紹介してあります。

２のツボ　層が刻むリズムを味わえ、では逓減率という考え方を披露しています。初層に対する五層の幅の割合が逓減率にあたり、法隆寺の五重塔逓減率は0.5ですから安定感がありますし、山口市の瑠璃光寺の五重塔は、逓減率が0.68ですからすっきりとして見えるというわけです。室生寺の小さく美しい五重塔も好きですし、瑠璃光寺の五重塔も好きな塔です。何故好きなのかが逓減率からも理解しました。醍醐寺の逓減率は0.61で、安定感のあるバランスのよい数値だそうです。なるほど。

３のツボ　塔に込められた祈りを感じよ、では池上本門寺の五重塔を説明しています。ここは二代将軍・徳川秀忠公の乳母岡部の局が、秀忠公の病気平癒を祈って発願したものだそうで、その込められた強い思いを知りました。
東寺の五重塔は、初層から、大日如来のひざ、腹、胸、顔、頭にそれぞれ相当すると考えられているのは初耳でした。

落雷にも戦乱にもそして不慮の火災からも守られてきた五重塔ばかりですから、その魅力を伝えながら大切な文化財として後世に守り伝えるためにもこのような番組は必要でしょうし、本書の意味合いもそこにあると思いました。