あなたも電子の標的に。
★★★☆☆
警察小説がブームだそうだ。今期は直木賞までが認めている。
ノンキャリアが主人公だったり、キャリアが主人公だったり、女性捜査官が主人公だったり、そうそう事件に多様性がある訳ではないので、主人公のキャラクターで読ませる作品が多くなる。
その点、この作品の主人公は、警視庁のハイテクであり、システムである。
電車での移動ではパスモが情報を集める。車の追跡はNシステムが監視する。偵察衛星からの情報は犯人の動きの先を読む。
犯人はまさに「電子の標的」になるのだ。
この作品は、帯にあるように「次世代警察小説」かも知れない。
としたら、次回は警視庁のシステムにクラッキングする犯罪者との対決を読みたいのもだ。
恐るべきハイテク捜査
★★★☆☆
正直物語としての出来は並み以下だと思う。
主人公が女性にモテモテでかつ女にだらしが無いのは著者の願望が見え見えだし、
誘拐事件も盛り上がりに欠ける。
とくに、犯人たちの頭が悪すぎる。
とくにトリックを使うわけでもなく、警察と駆け引きするわけでもなく、
犯人や動機に意外性もまったく無い。
とうぜんながら犯人たちとの戦いは、主人公が率いる特別捜査室の圧勝に終わり、
犯人たちはハイテク捜査のなすがままになるだけだった。
著者が書きたかったであろう「ハイテク捜査の勝利」ではなく、「工夫の無い犯人の敗北」
に見えてしまって仕方が無い。
けれども、ハイテク捜査の描写には文句無く圧倒される。
ハイテク機器の活用というだけでなく、筆者が現役時代に勤務した公安部・警備局・
内閣情報調査室などの捜査官の描写にも生々しいものがある。
フィクションだからどこまで現実に沿っているのかは分からないが、
ここまで捜査方法を暴露して良いのか?と、心配になるほどだ。
犯人との駆け引きやトリックなどの余計なものをすべて排除して、
ハイテク捜査の描写だけに読者を集中させる意図を持って書かれたのであれば、
その試みは成功していると言えるのだが。。。
まさに電子の標的!
★★★★★
元公安警察の浜氏の3作目。いやいや、相変わらず、警察セクションについては、勉強になります。桜田門の警視庁内部の部屋の作りや、刑事部長室や警備部長室の作りなど、イメージが鮮明に湧いちゃいます。警視庁は空から見ると、建物がYの字になっていて、Yの付け根の部分、つまり皇居側に、偉い人の部屋が固まっているそうだ。こんなの、元刑事しかかけないですよね。刑事部長と警備部長はキャリアの同期が必ず就任するとか、そんなセクショナリズムは浜氏しか書けない!!
さて、ストリーはというと、今回は誘拐もの。誘拐犯といえば、SITがメインなんだけど、やはり警備畑出身の浜氏の御ひいきか、SATが立てこもりの説得をする前に、いきなり突入しちゃいます。主人公の藤江康央は女性にもてもて。バツイチのキャリア警察官だけど、現場一筋。職場では、二人の女性とお付き合いするなど、仕事もプライベートもやり手な男です。でも、誘拐捜査がこんなハイテク機器でもって、解決されているとは知りませんでした。つまり、それだけ我々は、いざとなれば監視されているのですよね。電車でいえば、スイカ等の入出場記録、各駅の防犯カメラ、車両でいえば、Nシステム。通信傍受による逆探知。身代金の受け渡しにともなう追尾捜査員の撮影機材、撮影技術などなど。ヘリも2機飛ばします。ハイテク機材を使いこなす優秀な刑事達の活躍が描かれています。現実、こんなにスピーディーに使いこなせるのかなあと思ってしまいますが。刑事同士の会話がリアルで面白いです。他の作家には、ないリアリティがありますね。ある刑事との会話。「転びでもやりますか」。こんなの、浜氏しか書けない!「転び」とは、「転び公防」つまり、転び公務執行妨害の略で、相手に刑事の身分を明かし、(拒否することを想定の上で)任意同行を求め、被疑者が拒否・抵抗した時にわざと転んで公務執行妨害を「演技」するという微罪逮捕を得意とする公安刑事のテクニックだそうです。オウム真理教の時も、カッターナイフ所持で逮捕したりしてましたものね。いやいや、面白いです。すぐに読んでしまいます。毛利和彦氏の「警視庁捜査一課特殊犯」も併せて読まれることをお勧め致します。