タイトルを変えるべき
★★☆☆☆
私が読んだ限り、本書がもっとも伝えたいことは、以下の2点。
-アポロの月面着陸を同時通訳した西山千は、神のような通訳者である。
-そしてその西山千の唯一の後釜は、著者である。
だから、「同時通訳」などというアバウトなタイトルにせず、「私の師、西山千」とかにするべきだったのではないだろうか。そのタイトルであれば、内容に納得できる。本書「同時通訳」には、すでに同時通訳を生業とする人には同感できるエピソードもあるかもしれないが、同時通訳を目指す人や知らない人にとっての情報は少ない。
この本には興味深いことは書いてあるが、ところどころに著者が「私こそ西山千を継ぐにふさわしい人物だ」というイメージを読者に与えるために差し込んだ文章や、流れ的には不必要な自慢がサブリミナルテープのように入っている。
-(しごかれたと著者が愚痴ったあとで第三者に言われた)「それは、松本さんを自分の後釜に育てようという特別な感情と使命感があったからですよ」
-「(頼もしいな、この松本という男は)そう思ったかどうかは分からない。とにかく沈黙のままで、語っていたのは、師の黒い瞳だけだったのだから」
-「私が師を求める?まさか!しかし、柔道三段、実用英語検定一級、ガイド国家試験合格書など、すべての資格を捨て、接近する」
著者の師への想いはすばらしく深く、ページの隅々から尊敬の念が感じられる。ただ、「同時通訳」という本にしては自伝的要素が強すぎて、著者も西山千も知らない人には退屈な部分が多い。
それから、2010年に出版された本に「ホモ」という言葉が出てくるのはいかがなものだろう?