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金沢・酒宴 (講談社文芸文庫)

価格: ¥987
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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長編を書く構想力やエッセイを綴る能力に疑問符 ★★★☆☆
私は短編集「怪奇な話」を読んで作者に興味を持った。文学に対する大らかな姿勢、英語における関係代名詞を繋げた様な捻った文体を使用しながらも明快な論旨を持つ文章を背景に、ユーモアと諧謔味に溢れた奇譚を仕立て上げる手腕に感心した。本書では、短めの長編「金沢」、短編「酒宴」の2つの代表的作品を収めている。

「金沢」は、内山と言う男が金沢の別宅で体験する"仙境的な饗宴"を、冒頭でも述べた独特の文体で綴ったもの。場所は金沢である必要はなく、主人公は内山である必要はないと言った事情が巻頭で捻った文体で説明される辺りがまず可笑しく、小説にリアリズムを求める姿勢を嘲笑うが如くである。ある物がその物でなければならない事由を説明・追求する意図はサラサラなく、時空や認識を超越した物語を指向している様である。だが例えば、「今の束の間に比べれば永遠というようなことは意味を持たない」と言う一文は気が利いてはいるが、地の文で述べられると違和感を覚える。全体として一幅の水墨画の印象を漂わせる意匠なのだから。読者は作者が導く桃源郷的世界に身を任せて置けば良いと言う体裁だが、名作の誉れ高い作品にしては興趣が薄い様に映った。表面的な風雅の裏にある作者の理知的思弁が前面に出過ぎていて、本手法で長編を支えるには少々キツイ感がある。

「酒宴」は、"飲兵衛"を主人公にして、通常の文体で書かれたエッセイ風のホラ話。酒好きが気儘に綴った他愛もない内容で、可もなし不可もなし。

「怪奇な話」によって得られた期待感が強過ぎたせいもあって不満足な内容。長編を書く構想力やエッセイを綴る能力において不充分なものを感じた。
難しいところもある ★★★☆☆
 金沢での、酒や食や芸術に触れつつ過ごす迷宮的な時間をゆらゆらと描いた「金沢」。それにユーモラスな酒幻想を描く「酒宴」。
 特に「金沢」は、けっこう難しい哲学的な表現もあって、読みにくかったりする。
 私は難しい文学表現にはあまり付き合っていたくない。無理に解釈して自分にしか通用しないような世界観を作ってしまうくらいならどんどん飛ばして読んでいきたい。
 だからこれも、ほとんど雰囲気を味わう小説として読んだ。喫茶店にボサノバがかかっているようなものというか、ほどよい目と舌と体温の心地よさを、その濃い雰囲気から味わう。
 そんなムードの小説として、気の向いたときにパラパラとめくってみたい。
あえて異を唱える ★★★☆☆
普通の文学史などには出てこない小説を傑作だと呼ぶことは一種の快感であろうがそれがただ自分は他の連中には味わえない楽しみを知っているのだぞと誇るためになってしまうとあまり面白くなくて吉田健一を絶賛するということにはいくぶんかその傾きがあってしかも吉田茂の息子だったりするから最近流行の貴種好みにもあっていてさらに和漢洋の知識に通じているというと石川淳のごとくそれだけで崇拝してしまう人もいてそういう人がたまたま吉田健一を絶賛したりして通ぶってみせるのであるが吉田の晩年の文章というのは異常なもので最初読むとたいていの人は驚いてちょっと文学通ぶりたい人は褒めるのだけれどいくつか続けて呼んでいくとまたかよ吉田先生飽きたよと言いたくなるところもあってしかも酒と美食と骨董に興味のない人間にはどうでもいいようなことが割合あって実はさして面白くなく何なら金沢へ行くときに飛行機など使わず越後湯沢あたりからほくほく線に乗り換えて行きながら車中で読むのにはいいだろうが忙しい現代人が仕事の合間に読むような小説ではないんではないかと思うそんな小説なのである。
これこそが本領! ★★★★★
美食家として人気が出たのは、みんなが親しむきっかけとして悪くはないが、その後ぜひ「小説」にたどりついてほしい。
翻訳者としても多くの業績があり、随筆家としても一流には違いないが、小説作品をどれか一つでも──とりわけ本書収載の作品を読むと、根底から評価がくつがえる。
他の誰も書くことのできない、独自のスタイルをきわめた小説です。
センテンスが長いのは、翻訳を手がけてきた所為もあるかもしれないが、この文体でなければ、この「時間感覚」を書き切ることは難しいのかもしれない。何作か読んで馴染んでくると、一種の中毒症状をきたしますね。自分で書くときに、つい真似をしてしまう。
あなたも、ぜひ、真似た文体で何事か綴ってみてください。
これは、一種の「快感」です。
冗長さにも理由があるんです ★★★★★
 これは、傑作です。驚いた。最初、何だよ、これ、って感じで、その文章の冗長さに呆れながら、そのインテリジェンスの匂いぷんぷんする言葉の晦渋さに、怒りながら読んでいったのだけれど、次第に圧倒されていってしまった。

 怖れいった。その晦渋さ、インテリジェンスも、その理由が読者に納得させるだけのものが、作品の中にちゃんと描かれてある。そして作品自体面白かった。自分の文学観が、少々変更されるぐらいの、ちょっとした衝撃があった。

 東京の神田に住むある中年の男が、不意に金沢に移り住む。永住するのではなし、気ままに赴き、一軒の家を借り、様々な人を訪ね歩く。とにかくこの内山と呼ばれる主人公は、アイデンティティの一切を最初から喪失している。そして「時間がたたせるのではなくてたつものであること」において、その〝金沢〟という停止した時空で、ヨーロッパ/東洋という対立の軸を根本とした、あらゆる事態の融合を、茫漠と広がった目の前に風景に観る。

 七〇年代日本の、傑作中の傑作の小説。