召しませ、生きた古文!!
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本書では、高校教科書に登場する「古典」を素材に、「古人の生き方・時代背景」といった知識の先にある「古人のものの見方・考え方」の抽出プロセス―理論的思考による内容読解・把握―が「1つの読み方」として展開されている。
確信犯的に「不合格教科書」と銘打たれ、ところどころエッセイ調かつ口語表現により皮肉っぽい言い回しがなされている本書。筆者が本書を執筆する原動力となったのは、平成10年の新学習指導要領に基づく教科書で学習してきた大学入学者を迎え入れる準備として、2006年度の講義内容を検討していた際に目を通した当該新要領に即した教科書であるとのことだ。
中学・高校の授業で触れた古文・漢文における教師の画一的な「内容理解」の押し付けに辟易し古典嫌いになったという筆者の思い出話からはじまって学習指導要領に対する批判に力が込められているのが伝わってくる。
他方、本書で取り上げられている古典作品の読解・内容解説には、筆者が長年取り組んできた研究手法が惜しみなく披露されており、テクスト自体の読み込みと当時の時代・文化的背景をドッキングさせた味わい深い解釈に引き込まれる。
本書は三部構成だ。第一部では、高校教科書で取り上げられている代表作品を学習指導要領の細かな指示はさておき、学習の要点を一応「教科書的」に押さえた上で、現代語訳で内容を確認した後、「教科書の謎」というコーナーを設け、純粋に現代語訳が難しい箇所にスポットを当てた内容が吟味され、登場人物の言動や行動に潜む意味が検証されている(第一部 教科書を読み直す)。
第二部では、教科書には選定されていない(今後も選定されないであろう)作品が取り上げられている。筆者は冒頭で、現行の学習指導要領では明治以降の古文がさほど取り上げられないことについて、現代語の確立に近い明治以降の作品から江戸、室町後期の古文、そして平安時代のいわゆる「教科書古文」と順を追って読んでいくのが自然ではないかと問う。また、内容的には性に関する話を取り扱っており、意図的に避けられる作品(ないしその箇所)もいくつか取り上げられているのだが、当時の性に対する認識や現実、当事者の怒りなどが厳密な現代語訳を通じて検証され、現代に生きる私たちに様々な問題を投げかける迫力ある解説として腑に落ちた(第二部 教科書には載らない古文を読む)。
第三部は、古文嫌いを生みだす原因としての学習指導要領の批判が主軸となっている。しかし、全体としては古文教育を超えた「教育のあり方」が、「教科書」の果たす役割や、教科書を取り巻く環境とその問題点など様々な角度から述べられているように感じた。学生にとって「学ぶ」という意識がトリビア的な豆知識を求める傾向に流れていること、そのような学生に対しいかにして、「へぇ〜」といって終わりですまない「知識」を提供できるかという点に関する記述は、特に読み応えがあった(第三部 論説編―国語教科書の古文、ここがヘン!)。
本書における筆者の試みは、教育の在り方についての様々な意見を喚起する上で格好のたたき台になると感じ、そのような意味で、非常に刺激的な1冊であろう。