上巻824ページ、下巻816ページ――本を手にとられた方はきっとそのボリュームに圧倒されることでしょう。
アメリカ大統領は、任期を終えると回顧録を出版するのが慣例ですが、これまでの回顧録はだいたいがゴーストライターを使って自画自賛を並べるだけの内容で、研究者でもなければ、まず食指は動かないものが多いといわれます。 そういう前例とは違い、ビル・クリントン本人の言によれば、この本の執筆に半缶詰状態で約二年間、専念したといいます。若いころに先達から、「きみは政治家に向いていない。作家になったらどうだ」といわれたというクリントンの文才はなかなかのものです。ユーモアを適度に織りまぜた文章は平明かつ自由闊達で、華やかな経歴の裏側に隠れた不幸な生い立ちや、世界最高の権力者ならではの孤独感が読む者にしみじみと伝わってきます。
この本の読みどころを三点、ご紹介しておきましょう。
①「公人の自叙伝としては前例のない率直さ」と評されるほど、スキャンダルも含めて、公私にわたる失敗や苦労話が驚くほど素直に語られている。前向きで憎めない性格と、アメリカンドリームを体現した経歴が相まって、いまなお高い人気を誇る人間クリントンの魅力が活き活きと浮き彫りにされている。②スキャンダルの印象があまりにも強く、政治的な業績はさほど話題になることのないクリントンだが、政治手腕や演説の巧みさは戦後の歴代大統領のなかでも一、二を争うといわれる。武力よりも交渉を重視した外交、銃規制や教育改革などに取り組んだ内政は、ブッシュ現政権とははっきり一線を画す「真っ当だったアメリカ」を思い出させてくれる。
③第二次大戦直後、ベビーブーマーの走りとして生まれ、二〇〇〇年に大統領を退いたクリントン。家庭内暴力、ケネディへの憧れ、公民権運動、ベトナム戦争と反戦運動、冷戦の終結、民族紛争、テロリストの跋扈……と、その半生は二十世紀後半のアメリカと世界の歴史にぴったり重なっている。
むろん、本書の読みどころはこれだけに留まりません。中東和平、北朝鮮、中国、テロリズム、日本との関係など、いまの、そしてこれからの世界の動きに直結するテーマがたっぷりと盛り込まれています。
アメリカで260万部の発行部数、ドイツでもベストセラー上位にランクされる世界的話題作をじっくりとお楽しみください。
(上下巻に、著者の秘蔵写真多数、略年譜、索引を収録)