「古典」であり「限界」も明白だが、敗戦に至る歩みを簡潔に描いた名著
★★★★★
刊行年から察せられるように、戦後体制の確立までを記述した「昭和前半史」である。
ポイントは2つある。
まず、コンパクトでありながら日本が第二次大戦で壊滅的敗北に至る過程が、第一次大戦にまで起源を遡り見事に描かれているという意味で、非常に優れた史書である。後述の問題はあるが再びあの悲劇を繰り返さないためという明確な視点の下に、「歴史」を「社会科学」にまで高めようとの意識を基礎に、この半世紀に近い日本社会の動きを記述しようとしており、その目標はかなりの程度「成功」していると愚生には感じられる。
まさに未来を見据えた新たな国つくりの時代にあって、過去をきちんと受けとめている。半世紀前の書であり、もはや歴史書としては「古典」に属すが、読み返すたびに学ぶところのある名著である。「岩波新書」も膨大な作品を抱えるが、今後とも常時入手可能であってほしい1冊である。
2点目は、この本の出現が亀井勝一郎などの批判を受け「昭和史論争」を引き起こした問題の書であること。なお、亀井の反論は『現代史の課題』で読める。論争自体はさる方の表現を借りると「『文学』からの反論」ということでこれから本書を手に取られる方にはあまり気にされる必要はないと思う。
が、現在の日本で行われているこの時代の「歴史」に関する論争に比べれば雲泥の差がある。
ただ、「講座派マルクス主義」に属す本書の著者らの「解放の夢」が現在に至る50年で完全に潰えたのは事実。というより、改訂中の「ハンガリー動乱」や直後の「スターリン批判」が「夢」の「夢」たるを教えていたはずである。
にもかかわらず愚生が「名著」というのは、経済の成長が思うように行かなくなる中、国際的に孤立し、無理な解釈で自国をひたすら美化する一方で、あらゆる手段を尽くして人々の批判的精神(これこそが「理性」の基礎だろう)を刈り取ろうとした「敗戦への道」の愚かさを明らかにしているからだ。