重厚な通史
★★★★☆
天保の改革から西南戦争に至るまでの、明治維新を論じた通史。論文集では無くあくまでも通史であるので一般読者を意識しているには違いない一方で、或る程度の予備知識(高校日本史レベルの知識)が無いと読み切るのも辛いという、非常に専門的な色彩の強い本でもある。各章の末尾には註という形で記述の根拠にした史料や本文では概略に留めた部分の詳しい説明が掲載されているのだが、その註の長さが本文の長さと余り変わらないという、堅牢な建築物や交響曲を連想させるような重厚さである。
出版から半世紀以上が過ぎて、今日本書を読み返す読者から観れば、本書に一定の限界や時代的な制約が感じられるのは止むを得ずむしろ自然なことだろう。しかしそのような限界をこえて、史料に基づく実証と時代の構造に対する考察の双方に基づいて記されている本書が提示する歴史像は今なお読み応えが在る。
歴史小説や時代小説で取り上げられているような幕末維新期の様々な事件や抗争が、或る時期の歴史学でどのように位置づけられ得るかという点に興味が在れば一読の価値が在ると思う。