著者が今もなお、岡嶋二人を大切に思っているのがひしひしと伝わってくる
★★★★★
ミステリー作家には珍しい、合作。
その合作を成し遂げた二人の、出会いから別れまでを描いたエッセイ。
二人はお互いを補完しあう。
だが、だんだん価値観のズレや相手の嫌な部分が見えてきて、我慢できなくなる。
なんだか恋愛小説みたいだ。
相手のことが嫌いになったわけではない。
でももう、どうしようもない。
著者が今もなお、岡嶋二人を大切に思っているのがひしひしと伝わってくる。
それが痛いほど伝わってくるから、最後の別れには思わず感動してしまった。
「小説は単品生産である。一つ一つの作品が、すべて違う書き方で書かれている。」
改めて、小説家というのはすごいなと思った。
ネタが出ない。〆切が迫る。自分のイメージとは違うものを出版しなければならない。
もうパニックというか、いっぱいいっぱいな感じがすごい伝わってきた。
ファンならぜったい読んだ方がいい。
岡嶋二人はまったくのど素人からミステリー作家になった。
なので、ミステリー作家を目指している人も読むと絶対得るものがあると思う。
こんなにも、なにかを訴えるエッセイ集は初めて読んだ。
うまい!一本とられたね!
★★★★★
これって、よく考えるとすごい本なんじゃないかって思う。
あたし個人でいうと、井上夢人さんの小説から入った。
最初は、メドゥーサ、鏡をごらん、だったかな?
パワーオフ、オルファクトグラム、もつれっぱなし、あくむ、風が吹いたら桶屋がもうかる、
ダレカガナカニイル、プラスティック・・と続けて、かなり気に入っていた。
並行して、基本的に賞をとる作品群にも惹かれていたので、岡嶋二人の名前も知っていた。
ただ、競馬とかボクシングとかが好きでなかったのと、なんかタイトルがもっさい(失礼)ので、
古くさい感じがして読んでもいなかった。
でも、たまたまクラインの壷がちょっと面白かったので99%の誘拐を読み、ちょっとamazon先生に伺った所、
なんと、なーんと、井上夢人さんと徳山諄一さんとの共同執筆じゃないですか!
で、最近たまたま手にしたこの本。分厚いし、ほれ、岡嶋二人はあまりすきじゃないし・・
って思って立ち読みモードではじめたら、止まんない。
これ、よっぽどそのへんのレンアイ小説よりもレンアイだ。
出会って、気があって、蜜月期で、倦怠期で、なんとかしようと努力して、ついに、わかれる。
細かいことのすれ違い。
大きな違いならばパーソナリティーの違いであると割り切れることも、
小さい故に声に出せずに溜って行き、でも結局溜ったところでひとつひとつは小さなことの集積だから、
それを持ち出して責めるのも気が引けて・・
結局フラストレーションが残り、暴発しては自分も相手も怪我をする。
キレのいい刀よりも、なまくら刀のほうがキレが悪い分、嫌な怪我をし、治りにくいのは言葉も同じらしい。
間に流れているのがレンアイ感情ではなくリアルな生活だとか相手の生活への配慮だから、
逆に痛々しくも生々しい。
おかしな二人をもじってつけた、岡嶋二人。それがすごく皮肉に聞こえるのは、なんだかねぇ。
胸躍り、やがて悲しき二人のお話
★★★★☆
プロのミステリー作家になるのがいかに大変かがわかる。
アイデアで一儲けできないかという徳山諄一と、結婚し子供もでき定職を持ちたいという井上夢人のコンビが、乱歩賞をとれれば金持ちになれるという誤った(?)思いこみで、賞取りに挑戦する。落選に落選を重ね、5年間にわたって挑む。その熱意と持続力はすごい。
この受賞までの、盛衰記の「盛」の部分は躍動していて、面白い。
受賞作、「焦茶色のパステル」の創作アイデアが実作になるまでも、細かく書かれており、ミステリー作家を目指すものには参考になる。
さて、プロのなってから、アイデア提出の遅い徳山に、井上は悩まされるが、競馬やボクシングなどに精通し、無から有を産む徳山のアイデアの原石があったからこそ、岡嶋二人の傑作が生み出されたのだと思う。
同時に、アイデア、トリックだけではミステリー小説はできない。ミステリーの醍醐味は、トリックそのものでなく、それを解いていく過程にある。効果的なプロットを組み立て、伏線をはり、動機を作り、いかに解決するかを考え、実際の文章にするには、ものすごい技術と根気がいる。ここは、井上の才能があったればこそだろう。
その二人の才能が、すれ違い出し、破局にいたる「衰」の部分は、本当に悲しい。
二人の、話し合いと分業がうまくいった最後の合作でもあり、岡嶋の最高傑作の一つ「99%の誘拐」を改めて読み返してみたくなった。(それと、実質的に井上が1人で書いたとう「クラインの壺」も)
徳さんも大変だったんだろうなー
★★★★☆
日本では数少ない二人の合作による推理作家『岡嶋二人』の誕生
から消滅までを綴ったエッセイ。
作者はコンビの片割れであった井上夢人氏。
合作というシステムを、徳山氏と井上氏の二人は作品の量産化
ではなく、質的向上という面で生かしていたのだと思う。
だからこそ岡嶋作品が今もなを根強い人気を持っているのだろう。
しかし、それゆえに二人の間の葛藤は激しかったのではないか。
その辺の事情を、作者の井上氏は赤裸々に、包み隠さず語っている。
これを読むと、井上氏も大変だったんだろうけど、徳さんも大変だった
んだろうなー、と思わずにはいられない。
残念ながら、徳山氏から見た文章は掲載されていないが。
個人的には、さらっと読める井上氏の文章のうまさだけでなく、
徳山諄一という『毒』があってこその岡嶋作品だと思う。
岡嶋二人のファンにはお勧めの一冊。
ただ、作品のネタバレがあるので、この本を読むのなら他の岡嶋
作品を読んでからにした方が良いだろう。
恋愛小説のような「二人」の物語
★★★★★
岡嶋二人・・・「おかしな二人」をもじってできた、井上夢人と徳山諄一のコンビ名(ペンネーム)。誕生から消滅まで、13年間の岡嶋二人物語。ノンフィクション的エッセイ。
文学青年でもなんでもない二人が、ただ一攫千金を夢見て、江戸川乱歩賞を狙う。
ずぶの素人が、全くのゼロから「読める小説」「おもしろい小説」をモノにしていくまでの過程は、小説作法としても読め、すごく興味深い。
また、二人が互いを補完しあい、刺激しあい、助けあうさまは、作品だけでなく二人の絆のようなものも、同時に作り上げていくように思えて、愛らしく微笑ましい。読みながらにこにこしてしまう。
だからよけいに、消滅にいたる「衰」の部は、悲しくやるせない。解説に大沢在昌氏も書いてあるが、本当に恋愛小説のようだと思った。
二人の人間が出会い、結びつき、別れる。そこに恋愛感情はなくても、深いところで関わり合いつながった関係は、恋愛に似た(もしかしたらそれ以上の)強い感情を生むものになるんだろう。
ラストの別れのシーンは、ちょっと放心してしまうくらい、せつない感動があった。