特に前半は、“殺人的”に長々と続く殺人についての解説
★★★★☆
最後の方で著者が述べるとおり、生物界の中であらかじめ本能として
プログラムされた捕食や共食いをのぞけば、同種を殺めるのは人類だ
けだ。人間だけに許されたその叡智(?)殺人という行為、特に日本に
おけるそれについて各種統計を駆使して巧みに解説してくれるのが、
その名もずばり『日本の殺人』だ。
実際に手にとるとわかるがこの本、新書という形態にしてはページ量が
多い(本文は実質269p!)。それだけこの本とその著者が殺人に対し
て「ガチ」で向き合っていることの表れではあるが、その「ガチ」が先走り
すぎたか、4章構成の本書、各類の殺人について具体的に読み込む第
一章が、160ページあまりにもなってしまっているのだ。サーティーワン
の何段も積んだアイスクリームと同じで、これではバランスが悪すぎる。
さすがに永遠かのごとく続く一章には最後の方で読むのに息切れがした。
下世話な興味で手に取ったことは謝罪するから許してくれと願いたくなる
ほどに、長すぎる。細かいことだろうが、ここら辺はもう少し章を分けた方
がよかったのではないか。あと、みんな知ってるか?縦書きの本で数字
がどんどんでる統計の話を読むのって、すっごく大変なんだぜ。
とはいうもののこの本で知ることも多々ある。まずわかるのは、実際に起
きているこの国の殺人事件には、フィクションで語られるようなど派手な
動機やど派手な真相は期待できないということだ。安全神話崩壊が叫ば
れる昨今だが、実際日本はやはり平和なのだ。日本の刑務所の世界に
誇れるその犯罪者の「更正率」の高さと、昨今の世間の「解体」によって、
その仕組みが揺らぐのではないかという危惧も語られる。
あともう一つ、意外だったのは、捜査一課(殺人を捜査する課)の人たちが、
二時間ドラマで葬儀屋のおばちゃんやタクシードライバーのおっちゃんなど
ずぶの素人に先に真相を暴かれるほど、本当は無能ではないということだ。
タイトルに偽りはありません(笑)
★★★★★
法社会学の専門である著者が、タイトル通り日本の殺人に関するこ様々な事柄を解説したものです。
日本の殺人事件の色々なパターンや、その捜査、殺人犯の刑務所での生活や出所後の生活、そしてひとを殺すということはどういうことなのかという問題まで、およそ殺人について関係あることは何でも(最低限は)触れてあるんじゃないかという印象を持ちました。
まさに『日本の殺人』といった感じです(笑)
基本的なスタンスとしては、メディアによってもたらされるイメージ(例えば殺人を犯す人間は血も涙もない殺人鬼であるとか、殺人を含めだ凶悪犯罪は増加傾向にあるとか)におどらされずに、もっと統計等をよくみて真実を知ろう、というところだと思います。
裁判員制度や死刑制度の是非についての著者の意見については評価が分かれるかと思いますが、「殺人」をテーマにこれだけ面白く読ませるのは見事だと思います。
中でも「殺人の魅力」にまでほんの少し触れている個所は「ここまで踏み込むのか・・・!!」と思い、もっと詳しく触れていて欲しかったなあと思いました。本書のテーマとも、法社会学の射程内でも無いので仕方が無いのでしょうが・・・
殺人そのものや犯罪学等に興味を持った人にオススメします。
裁判員になったら一応読んでおくべき本
★★★★☆
この本から学ぶべきことを一つだけあげるならば、メディアは必ずしも真実を伝えないという言い古されてきたこと。マスメディアからの情報で予断をもった人が裁判員になることを考えるとぞっとする。死刑制度の存廃に対する考え方も参考になろう。ただ、殺人は個別の事情を十分に吟味して判断すべきだという主張をしているのに、裁判員制度が日本社会が実態に合わせて変化する機会だと支持していること。裁判員裁判は3回か4回の審判で結審してしまうから、とても十分に吟味したなどとはいえないだろう。長い裁判だと10年がかりなんてものもあるんだから。あと、言葉遣いがときどき口語的というか雑になるのが気になる。深刻な話をしているはずなのに、茶化しているように読める。著者の主張に全面的に賛成はしないけれど、冷静な分析には敬意を表したい。そして裁判員になった人は、今からでも遅くはないから一読すべきだと思う。厳罰化が市民感覚だとかふざけたこと考えなくなると思うから。
違和感の残る裁判員制度への態度
★★★☆☆
全体として科学的といえる論証には概ね同意できる。ただ、どうしても違和感が残るのは裁判員制度を肯定する著者の論拠だ。「(裁判員としての)刑事裁判への参加は、人生を深く味わう機会を与えてくれるであろう」という言葉は、新制度を忌避しがちな人々への説得という部分を割り引いてもやはり本末転倒の感がぬぐえない。
さらに著者は、「安全神話崩壊」の原因を共同体のあり方に求める考え方から、「犯罪への対処として、一部の人々ががんばる一方、残りの一般市民は、何も知らずに安心してきた」現在までのあり方を根本的に変える契機として、市民参加型司法制度=裁判員制度に期待している。何万人に一人という少数の裁判員が参加することがどのように安心をもたらすのか、その辺りの説明にも曖昧なものを感じた。
言葉にもっと気を配って欲しかった
★★★☆☆
本書は,殺人事件を類型別に整理して,類型ごとの
犯人像を分析,その結果から,「殺人犯」という言葉
に対するステレオタイプな見方を崩していきます。
殺人犯もイロイロ。よく考えれば当たり前のことな
のですが,なかなか気付かれてこなかったのも事実。
殺人事件を「普通の人」の生活圏から切り離してきた
日本の社会が,そうしたステレオタイプを固定化して
しまったのかも知れません。
裁判員制度の本格始動に伴って,これまで事件とは
縁遠かった「普通の人」が,こうした殺人犯の実像に
直面する。河合の指摘はいつも示唆に富んでいます。
というわけで,内容的には申し分ないのですが,歯
切れの良い言葉遣いが裏目に出てしまっているのが残
念なところです。断定的な評価が多く,せっかくの分
析結果を雑にまとめてしまっているような印象を受け
ます。推敲の跡も見当たりません。
良書としてお勧めはできませんが,我慢して読み進
めれば,それなりの収穫はあるはずです。