イラクに平和をもたらすのは誰か
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戦火の中で平和を願う庶民が、ネットを通じて伝えた、庶民から見たイラクの現状。イラク人に対する不信感に凝り固まった米軍、さらには混乱を拡大することによって米軍から身を守ろうとする外部のテロリストらによって、市民が次々と命を落としていく様子は、胸が苦しくなる。
著者自身に限っても、交通事故で病院に運ばれる途中の兄が、米軍の通行許可が得られず、出血多量で死亡するという体験をしている。許可は、米軍がけが人の死亡を確認した後で下りた。また、本書の基になったブログなどが原因で2度にわたり逮捕され、10日間以上拘留されている。拘留中の尋問の様子はこうだ。「職業は?」「エンジニアだ」「ではお前は爆弾を作れて、銃も改良できるな!」
市民に対する無差別な攻撃と、そこから生まれる敵意・報復感情という泥沼。その中で、人間への信頼、平和への思いを支えに理性を保ち、なんとか憎悪の連鎖から脱却しようと、街の再建を目指す著者も、時にその泥沼におぼれそうになる。しかし、本書は最後の最後に希望も示す。著者が住むラマディやファルージャで部族が報復を目指すレジスタンスに停戦、武装解除を指示。これを受けて米軍も空爆や不当逮捕をやめ、両者が協力して、イラクの混乱を狙うアルカーイダ系武装集団の逮捕が進み、状況は大きく好転したのだ。
米軍の戦闘部隊が撤退したが、一向に治安の改善が見られないイラク。そこで平和を構築していくにはどうしたらいいのか、誰がその担い手になるのか、本書は大きな示唆を与えてくれていると言えよう。