中世に迷い込めるひととき
★★★★★
観ている間だけはこの世界に入り込んで俗世を忘れられる。非常に楽しい物語だ。
従来のロビンフッド像とあまりに違うので当時は反発もあったようだが自分はあまり気にしない。
この冷静さは自分がその文化圏に属していないためなのかもしれないが、おそらくそれだけでなく、
この映画では長く愛されてきた「ロビンフッド」らしさがとてもよく表現されているからだろう。
強きをくじき弱きを助け、賢く、勇気があり、武術に長け、一人の女性を愛する―いつの時代も、国が違っても、
民衆の求めるヒーロー像は同じなんだなと思うと、800年もの間語り継がれてきた理由も解る気がする。
映像特典を観れば判るが、正確な時代考証に基づいた武器や衣装、忠実に再現されたセットは言うまでもなく、
主にイギリス・フランスで撮影された美しい古城、有名な史跡、素晴らしい自然を堪能出来るのもこの映画の見所だと思う。
ロックスリー城は、実際に焼け落ち廃墟となった城を使って撮影されたそうだが、だからこその迫力だったのだろう。
とにかく「真に迫る映画」を創るために様々な工夫や配慮が働いていることがよく解る。
特に、ライティングに非常な気遣いがされているのは、映像技術に全くの素人である自分にも解るほどだ。
ロビンフッド伝説を検証した30分ほどのミニ番組も必見だ(おそらく公開当時に向こうで放送されたもの。日本語字幕付)。
DVD同様、こちらにも同じく未公開シーンが12分ほど追加されている。ノッティンガム公と魔女モーティアナの物語。
これがあるとないとではノッティンガム公への見方がかなり変わって来る。
彼の人間性にも関わってくるシーンなので、公開当時は削除されていたことが非常に残念だ。
(制作者達のこのシーンへの思いなども映像特典で色々と聴くことが出来る。)
DVDも持っているが、音はともかくとしても映像の美しさはやはり比較にならない。少なくとも自分には。
本作はVHSの頃から好きだったので、観た回数で言えばまだVHSが圧倒的に多いのだが、
正直DVDとVHSではクオリティに大差はなかった。しかしDVDとブルーレイの違いときたら…技術の進歩に感謝。
本作はその素晴らしい出演者とその的確なキャスティングにも多くを負っていると言えるだろう。
若干老けたロビンフッドであることは否定出来ないが、ケヴィン・コスナーが好きな私としてはノープロブレム。
ロビンフッドの持つ「正」のイメージに彼はよく似合っているし、弓や乗馬の腕前もなかなか凄い。サマになっている。
命の恩人であるロビンに付き従うムーア人を演じるモーガン・フリーマン、確かな演技力と重厚な存在感は圧巻。
悪代官ノッティンガム公演じるアラン・リックマン、鬼気迫る中にもどこかおかしみの混じる悪人ぶりはあっぱれ。
様々な遺恨から素直になれない青年を演じるのは若き日のクリスチャン・スレーター。その若さは突っ張った役どころがピッタリ。
脇を固めるという言葉では失礼なほどの豪華な顔触れに今でも驚く。最近ここまで豪華スターの揃った映画は少ない気がするので。
他にも英国では名の知れた舞台俳優やTV俳優、シェイクスピア俳優など、「性格俳優」と呼べる個性豊かな役者がたくさん。
極めつけは物語のラスト。こんな大俳優がなぜ…と驚いたが、昔演じた役だからこそだろうか。
この作品はその素晴らしい音楽も見逃せない(聴き逃せない、かな)。音楽だけでも一つの作品になるほどだ。
特に印象的な導入部に流れる物語のある旋律は何度聴いてもいいと思う(普段結構耳にするので聴き覚えのある人は多そう)。
有名なタペストリーを背景にクレジットが映し出される中、静かではあるけれどいかにもドラマの起こりそうな、雰囲気のある音楽が流れ、
それを観ているうちに自然と頭の中の時計の針が中世の十字軍遠征の頃へ合わせられていくから不思議だ。
映画における音楽の重要性を改めて意識させられる。
観ていてとても解りやすい勧善懲悪、その中にロマンスあり、戦いあり、恩返しあり、仲間との絆あり、思わぬ肉親との巡り合いあり、
まさに娯楽映画の王道を行く作品と言えるだろう。少なくとも私にとっては何度観ても楽しめる大好きな映画だ。
(なお、くまなく観たが、2009年の物との違いはあまりないように思う。断言は出来ないが…。)