本書の多くの箇所で引用されているのは、『東京ラブストーリー』(1991)、『ロングバケーション』(1996)などの「ポスト・トレンディードラマ」だ。それらのヒットドラマそのものについての、あるいはヒットドラマを構成する重要な要素である脚本家についての考察に関しては、的確にまとめられているものの、日本のドラマ事情をよく知る者にとっては新味はあまり感じられないかもしれない。だが、日本のテレビドラマがVCDという安価な(海賊版を作りやすい)メディアを通していかにアジア圏、そして欧米にまで伝播したかを述べる3章、さらに香港、台湾、中国、シンガポール、韓国といった国々での受け入れられ方を調査し、その理由や影響を考察した4章以降は、まず述べられるその「状況」からして、なかなかにスリリングな様相を呈する。さらに、政治的、倫理的、あるいは感情的背景ゆえの、各国での反応の微妙な違いも興味深いところだ。章ごとに執筆者が異なるために語り口はもちろん切り口も全く異なることが、若干散漫な印象を与えるものの、全体としては示唆に富んだ好著だと言えるだろう。
おそらく我々は、日本のテレビドラマ(もしくは、日本のポピュラー文化)が、アジア諸国でこのように受け入れられ(あるいは拒否され)ていることに、もう少し自覚的になるべきなのだ。「日本が一番」的な歪んだ優越感を満足させるためではなく、自らの文化のどこにどのような「グローバル化」への芽があるのかを知るために。(安川正吾)