奇跡的です
★★★★★
「神聖喜劇」と言う題名はまさに当を得ている。決してあからさまに滑稽な描写があるわけではなく、内容も所謂喜劇的なものでは決してないのだが、普通の場面、真剣な、真面目な(滑稽・喜劇とは正反対な内容)場面の中の一行で思わず笑うことを禁じ得ない。そのような箇所が幾度となくこの小説には現れる。大西巨人という小説家の文章力の賜、表現力の豊饒さと言ってしまえば簡単なのだが、近代・現代日本文学の名作と呼ばれるものを読んできた上で思ったことだが、表現力の豊饒さ、文章力の賜といったものだけでは決してこのような体験を読者に与えることは出来ないのではないだろうか。ではいったいなんなのかと問われても上手く答えられない。わからないことは「奇蹟だ」と言ってしまえばどうにかなっ!てしまうので、たぶん本作は奇跡的な書物だと思う。