多民族国家の苦悩
★★★★★
本書は、『ハプスブルクの実験―多文化共存を目指して―』(中公新書、1995年)に新たに3つの章を加えた改訂増補版である。多民族国家であったハプスブルク帝国の統計、議会、行政、軍制や教育の分野で生じた民族問題に対して、帝国当局がどのようにして対処していたのかを扱っている。また、帝国からアメリカに渡った移民や帝国に居住していたユダヤ人についても取り上げている。この本を読むことで、多民族国家であったがゆえに、国を統治する困難さが窺える。
また、特に印象に残ったのは、第9章の「人類最後の日々」である。第一次世界大戦下(日本とオーストリア=ハンガリー帝国はそれぞれ連合国と同盟国に属していた)、日本の青野原俘虜収容所に収容されていたオーストリア=ハンガリー帝国兵に関する記述がある。そこでは、当然捕虜が不穏な動きをしないように厳しく監視され、実際に捕虜同士のいざこざも生じていたようである。しかしその一方で、単調な生活に飽きることによって捕虜たちが収容所生活に不満を持って脱走や反抗行為をしないように、また身心面での健康維持のために娯楽が認められていた(チェス、トランプ、音楽やお菓子作りなど)。当時の日本とオーストリア=ハンガリー帝国との接点を知ることができ、とても興味深い内容であった。