助けたねずみに伝染病をうつされて死んでしまう、おじいさんとおばあさん。シンデレラは足がむくんでガラスの靴が入らない。小さいつづらを選んだ正直ばあさんと、大きいつづらを選んだ意地悪ばあさんでは、いったいどちらが本当に正直なのか。「教訓も、癒しも、勝ち負けも、魔法も、無い」と言いきるたけしの童話は、物語に大人たちが植えつけた虚飾を容赦なくはぎ取り、むき出しの現実をぽんと投げてよこす。
かつて、たけしは自伝エッセイ『たけしくん、ハイ!』の中で「子供の時の感性ってのを、俺はいつまでも大切にしたい」と語っている。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」など、たけしのギャグの魅力は、大人たちが言いたくても言えないことを代弁してくれる痛快さだ。その痛快さは、裸の王様に向かって「王様は裸だ」と叫んだ少年のような感性から生みだされてきたことが本書を読むとよくわかる。102の物語は、ビートたけし、あるいは北野武の原点を写しとったものでもある。(中島正敏)