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犬の力 下 (角川文庫)

価格: ¥1,028
カテゴリ: 文庫
ブランド: 角川書店(角川グループパブリッシング)
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今だに続くアメリカの麻薬需要。 ★★★★★
需要があるから供給があるのだろうが、アメリカ社会から麻薬を根絶することなどと考えるのは、先の見えない不毛な努力を強いられるむなしい仕事の連続だろうと思われる。
本書の主人公DEA捜査官のアート・ケリーは、何故かこの不毛の戦いにのめりこんでしまう。

プロローグは、1997年、バハカリフォルニア州エルサウサル(メキシコ)で麻薬シンジケートの幹部の一族19人が惨殺された描写から始まる。

1975年に時間をさかのぼる次の第一章では、主人公のアート・ケリーが、物語の最終章まで追いかけることになるとは夢にも思わない若かりしアダン・パレーラ(後の麻薬シンジケートのトップ)と親しくなる設定など、かなりの構想を練った末での著者の布石とも思える。
プロローグの情景が、下巻12章「闇の中へ」へ続くなどの意外な展開は、読者の琴線に触れてなかなかのものだと感心してしまう。
アメリカとメキシコ国境あたりの情景描写を読んでいても、映画の一シーンを観ているような錯覚さえ覚えるような筆致で書かれているから退屈はしない。

本書のタイトル、「犬の力」の意味が旧約聖書の詩篇二十二章二十節からの引用ということも訳者後書きで知った。
この二十二章には、苦難と敵意にさいなまれる民がその窮地からの開放を神に願う下りに、”剣”も”犬の力”も、民を苦しめ、いたぶる悪の象徴という意味で使われている。
おかしなタイトルの本だと思いながら読み始めたのだが、訳者の後書きで、まさに「犬の力」とのタイトルは、本書にふさわしい。
本書中、「犬の力」という言葉が書かれていたのがたった5箇所だったのにである。

最近読んだこのジャンルの本の中では秀逸な一冊であった。

綿密な取材に基づいて思い切りよく描いた著者の自信が伝わる1000頁 ★★★★☆
 1970年代から90年代に至る中南米およびアメリカ合衆国を舞台にした麻薬戦争を描く巨編の下巻467頁。上巻とあわせれば1000頁を超える大部の作品です。

 史実を背景にしながら虚構を組み立て、激しい暴力と陰謀、人間の欲望と正義への希求を描く、スピードとスリルあふれるストーリー・テリングはなかなか読ませます。

 麻薬戦争の背後にうごめく超大国の政治の闇と企業の思惑。反共の名のもとに、恣意的な政治決定や企業活動が多く行われ、おびただしい量の血が流れた史実が仮借なき筆致で描かれていきます。
 本書にはモンサントという実在する企業の非社会的行為についても赤裸々に綴られています。これほどまでに著者が思い切りよく筆を進めたということは、かなり綿密な取材に基づいて書ききるだけの自信があったのでしょう。そのことに大いに驚きと敬意を感じなら読み進めました。

 アメリカ大陸の麻薬戦争は今日なお終わりが見えぬ状況にあり、本書が描くDEA特別捜査官アート・ケラーと麻薬王アダン・バレーラの対決のような事態は今も続いているのでしょう。そのことに思いをはせると、なんとも痛ましい読書になります。

*上巻のレビューでも記しましたが、原文に登場するスペイン語を訳者は、日本語の訳語にカタ仮名ルビで原音表記しています。残念ながらこの下巻でも幾つか表記に誤りがあります。「誘拐者に死を=ムエルト・ア・セキュエストラドーレス」は「〜セクエストラドーレス」、「愛国連合=ユニオン・パトリオテイカ」は「ウニオン〜」とするのが原音に近いといえます。
非常に映像的。是非とも映画に ★★★★★
オリジナルは2005年リリース。邦訳は2009年8月25日リリース。2010年版海外編『このミス』第1位。『週刊文春ミステリーベスト10 2009』第2位。事実上2009年の海外ミステリーは『ミレニアム』とこの『犬の力』の一騎打ちだった。間違いなくドン・ウィンズロウの最高傑作だ。

自身がニューヨークをはじめ全米・全英で私立探偵をし、一方で法律事務所や保険コンサルタントをしていたというキャリアが実に作品に生きている。つまりここでのストーリーが極めて『現実に近い』のだ。それ故、ストーリーの登場人物も極めてリアルで、実在している(あるいは実在していた)としか思えなくなる。他作品例えば『ボビーZの気怠く優雅な人生』でもここに登場するDEAは登場してくる。ただそのリアルさが極限に近くなっている。

まるで現代版『ゴッド・ファーザー』を眼で見ているような映像性はすばらしい。この作品は是非とも映画で観てみたい。そう思った。
読ませる力のある物語。翻訳が惜しい。 ★★★☆☆
『ストリート・キッズ』から始まるニール・ケアリーシリーズ同様、作者ドン・ウィンズロウの構想力が光る。一場面一場面に長い筆を割かず、端的に時間の流れを追っていく作品なので、非常にスリルのある編年体の物語(クロニクル)になりえている。

惜しむらくは、訳文が読みにくいこと。下巻での若干の誤字脱字や、主語と述語の非対応には目をつぶるとしても、一貫して文末が直訳で現在形なのはいただけない。叙述のトリックを用いる場合などを除けば、日本語の文では、現在のことでも過去の助動詞などを用いていかないと単調な文体になる。『ボビーZの気怠く優雅な人生』でも同様のことを感じたので、訳者のこだわりなのはよくわかる。しかし本作の場合、特に作品の語りだしから比較すると過去のことを述べている場面が多いので、原文どおりの時制で直訳するのではなく、時制の点では多少意訳してもらってもよかっただろう。

とはいえ、長編を読ませる力のあるミステリーに乏しい昨今、読んでいて飽きさせない作品なのは間違いない。文体が気にならない、あるいは好みにあう方なら、★5つ分の価値は十二分にあるだろう。
人間の深淵な狂気が訴えてくる ★★★★★
タイトルの『犬の力』。
本文内で明確な説明はされないものの、非常に印象的にこの言葉が使われています。
それは、人間の心奥深くにある狂気に似た感情を暗示していると私は感じました。

麻薬捜査官であるケラー、権力に取りつかれたバレーラ兄弟、
ささいなきっかけから暗殺者となったカラン。
十数人にも及ぶ登場人物たちは、初めこそ自分の信念に基づいた生き方をしていますが、
年を経るにつれ、自分の過去と自分の中の狂気に支配された人生をいつしか歩み始めています。


アメリカ、南米の麻薬戦争に絡む史実は事実に基づき、
その裏で暗躍するフィクションの登場人物たち。
リアリズムとフィクションが見事に融和し、その世界観にどっぷりとはまらせてくれます。

「ミレニアム」やトム・ロブ・スミスの「チャイルド44」なども読み応え十分でしたが、
当初はそれを凌駕する出来のハードボイルド小説でした。