仕事をクリエイティブなものにする。考える人をどれだけ創れるか?
★★★★☆
若松義人氏の著となる一連の『トヨタ式』シリ−ズには、TPS(トヨタ生産方式:Toyota Production System)の要となる部分が簡潔に述べられている。
TPSはその考え方・視点が重要であり、その実践はカイゼンを導入する企業・組織の持つ文化・風土によって、各々固有のシステム構築を行うべきものである。考え方・視点という意味において、本書で紹介されている事例にはカイゼンの本質がちりばめられている。
「問題がない」ところにはムダがある(p.20)。現象に手を打つな。「なぜ」をくり返せ(p.64)。「問題のホルダ−」・何もしないのは気づかないより悪い(p.90)。出来ない理由は百ほどもある(p.96)。これらはまさに圧巻。
TPSによるカイゼンには多大なエネルギ−を要するのだが、自らの責任として業務のプロセスに切り込むことで問題の真因を叩く。問題の根を断ち切ることが、実は「速さ」と「質」を両立させる問題解決である。
そのためには現場の知恵を絞ること。考えることによって叡智を集結し、仕事をクリエイティブなものにする。考える人をどれだけ創れるか?
そこに、TPSの真髄を見た。
スピード問題解決、とは行かないが・・・
★★★★☆
これを読んだからといって、現場の問題がスピード解決するか?
といえば、決してしない。
むしろスピード解決するためにどのような心構えで
問題に取り組めばよいかという啓蒙書と考えたほうが良い。
自分や部下をいかに「スピード解決できる人間」として
成長させるか、その方法、取り組み方について
多くの実例を挙げて説明している。
改善が改悪になっていることを気づかせるため、
チョークで円を書き、その中で丸2日ラインを観察させ続けたり、
なくなったカンバンが見つからないと泣き言を言う部下に
「見つからないのは本気で探していないから」
と一蹴してしまうエピソードは精神論として
その最たるものかと感心した。
本書は管理者がどのような心構えでいればよいか、
部下に対してどのような指導をすればよいかを
(そのまま自社に転用できるわけではないが)
つらつらと書き綴っており、漫然と読むだけでも
ハッとするセンテンスがたくさんある。
右手に赤ペンなり付箋なりを持って読むことをお勧めする。
5ページに一行くらいはラインが引かれることと思う。
方法論やフレームワークではない「問題解決」の本質に対する視点を提供してくれる
★★★★☆
「トヨタ式」と名の付く書籍も、「問題解決」関連の書籍も世の中には非常に多くあります。
そうした中で、この2テーマに限らず、最近出版される書籍の多くは、既存の概念や方法論を
異なった切り口で整理し直してみたり、組み合わせたりしている場合が多いように感じます。
そういう意味では、本書にも「トヨタ式」という接頭辞が付いている通り、トヨタの現場で
実践されてきたことを元に、「問題解決」という切り口で整理した書籍です。
上記を前提とした上で、本書の特徴(価値)は下記3点にあると思いました。
1.問題の「解決方法(所謂、方法論)」ではなく、意識すべき「視点」を学べる
2.巷の「問題解決」本に見られる「論理思考」ではなく、問題とは何か、どう解決するかを
意識できるよう、「問題解決」の本質を捉えている
3.「問題解決」への継続的な取り組みが「人を育てる」ことも観点として触れられている
フレームワークやロジックではなく、そして中途半端な方法論の紹介でもなく、
「問題」を「問題」と認識することの重要性とその奥深さ、そして認識した問題に対して
解決に取り組む際の心構えと姿勢の重要性を学べます。
本書も読み易い書籍ですので、短時間で読めてしまいます。
ただ、読みながら貼った付箋の数は、個人的にもすごく多いです。
付箋を貼った箇所は、主に本書で多用されている大野氏の発言内容や、
実際に改善内容に取り組んだ方の気付きの箇所です。
これらは、一読すると「なるほど」と思いますし、「自分も意識して取り組もう」
という気になりますが、中々継続はしないものです。ただ、当然ながら、本書に
限らず内容を咀嚼し、実践することが重要だと自戒を込めて感じています。
特に印象的だった部分は下記です
・問題はどんな所にでも必ず転がっている。捉え方によっては「何もなくてよかった
ね」ですんでしまう。恐ろしいことである。
・気付く力がある人には、問題が問題として見えてくる
・一番大事なのはやる気である。感情を無視して理屈だけでものごを進めようとすると
失敗することが多い。どうすれば人が納得するか、どうすれば動いてくれるかを
しっかり考えることだ。
問題解決本や問題発見本も、そして考え方も既に世の中にたくさんあります。そして、
色々な手法を用いて、論理的に深く考えれば「問題」自体は解決できると思います。
但し、本質は人の意識の変革であり、その結果事業や業務の変革が実現することであると
思います。そのためにも本書で述べられるような「視点」を持って業務に取り組むことが
重要であるということを、改めて気付かせてくれます。