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学力と階層 教育の綻びをどう修正するか

価格: ¥1,890
カテゴリ: 単行本
ブランド: 朝日新聞出版
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そんなに面白いかなァ〜? ★★★☆☆
 08年末に刊行されたこの本には、00年初出の「学習時間の階層差とその拡大」を除けば、04年から08年に発表された論文が収められている。
 著者はあとがきで「時がたつにつれ『時代遅れ』の烙印を押されるのは実証研究の宿命」(p317)と述べているが、しかしこの本で面白かったのは主に第1章に収められた実証研究の部分(上に挙げた、本書中で最も初出の早い論文も、ここに入っている)で、安倍内閣から加速した教育改革についての一連の批判・検討の方が、今となっては焦点のズレを感じさせる。たとえ時事的な問題を扱っても、ある深度に達した議論は時の経過を乗り越えるものだと思うが、ここに収められている論考にそのような洞察は感じられず、取り上げられる論点は案外に月並みな印象を与える。また全般的に言えることだが、理論的な話になると、この著者の文章は意味を取りにくくなる傾向があるようだ。特に第4章の第2論文などは、著者の理論的思考におけるセンスのなさを露呈してはいないか?
 また、著者が自らの実証研究の独自性と考えているらしい、「能力」よりも「努力」に着目する視点についても私には疑問がある。確かに「努力」に着目することで著者は「インセンティヴ・ディヴァイド」のような興味深い問題を取り出し、階層や政府の経済政策との関連で教育を見る回路を開いたとは言えるのだろう。しかしその一方で、今度は逆に「生得的能力」の問題が死角に入ってはいないか? そこは他の人に任せたということなのか?
 とにかく、それほど面白い本とは思えなかった。
「新自由主義の終わりは来たが、世界的経済危機の中でこれまでの格差論とは異なるもっと厳しい冬の時代が訪れるかもしれない」という予感は、当たっているのかもしれない。 ★★★★★
 表題の通り、著者のフィールドワークを通じて、現代日本の教育格差が、親の階層に応じて固定化されつつある現実を浮き彫りにしている。

 加えて、教育財政の改革を通じて、財政力のない地方に教育への負担が大きくのしかかり、財政力のある地方とないところの差は1.8倍にもなるという。

 また、過酷になる一方の教員の労働環境。中学校程度の基本的な知識さえ持っていない大学生の激増。教員養成大学の入学者の質の低下。などなど、懸念すべき課題がいくつも浮き彫りにされる。

 そういう意味で、著者が記しているように「新自由主義の終わりは来たが、世界的経済危機の中でこれまでの格差論とは異なるもっと厳しい冬の時代が訪れるかもしれない」という予感は、当たっているのかもしれない。
わが国の教育の再生と格差社会の改善について考えさせられる好著です ★★★★★
 我が国で学力低下が問題視されてから久しい。本書は、日本の子どもの学力形成の背景に何があるか、データに基づいた分析によって明らかにしている。

 著者は、子どもの学力は、親の職業や学歴など家庭的背景に強く影響を受けているという。直感的にもそう思えるかもしれないが、それをデータ分析で裏づけている。では、学力は家庭的背景だけで決まるの
か。

 学力向上のための努力が、家庭的背景を乗り越え、恵まれない環境の中からでも高学力の子どもが生まれる可能性は否定できない。しかし、近年の傾向として、少子化等の影響で受験競争が緩和されたことで、学力向上のための努力に対する学校の後押しが弱まり、学力差が拡大したという。
 学力低下や学力格差拡大を食い止めるためにも、義務教育への期待は高まる。しかし、地方分権の「三位一体改革」で、国から自治体へのひも付きの義務教育費国庫負担金を削減して、その財源を地方自治体へ 地方税として移譲したことで、事態は悪化してしまったという。要するに、過疎化や人口減少に直面する地域では、この改革で税収は増えない割には義務教育費国庫負担金の減額が大きかった。そのため、義務教育に投じる財源に地域差が出かねない状況となっている。
 我が国の教育をいかに再生するかは、難しい問題である。その中でも、著者が示すように、学歴社会から学習資本主義社会(学習能力を核とした人的資本の形成)への移行を目指した取り組みを地道に行うことで、少しずつ活路は開かれてゆくのではないだろうか。本書は、親子ともども、学ぶことと、それにより身につけた能力の活用に日々取り組んでいくことが大切だと改めて感じさせてくれる本である。
問題点を把握 ★★★★★
現在の学校教育が抱える問題点を把握するには非常によい本だと思います。単に現状把握に留まらず、著者なりの策がきちんと提示されている点も◎です。
放置された教育格差と不透明な展望 ★★★★★
思えば階層に起因する学力差が発生し、
日本社会の中流・平等神話は崩れていることを、
日本で一番先に示したのは苅谷先生でした。
「格差社会」という言葉が日本の隅々にまで浸透した現在、
苅谷先生の視線・論点は多くの学者が提示する論点の原点だと思います。

さて本書ですが、
科学的な分析を示しながら、
教育の問題点を論じています。
暗澹たる気分になるのは、
子どもの意欲にすら階層差がはっきり存在していること。
この指摘は山田昌弘氏等の指摘と同様ではありますが、
大御所が改めてはっきりと書くことで、
現在の教育制度の限界を強く感じます。
21世紀に入って以降も何も変わっていない。
制度、意識も煮詰まっています。
そこに絶望の気配も漂います。

教育と社会のありかたが連動するのは、
至極当然ですが、
日本の国力と結びつけたり、
教育の混乱を、
(左右ともに)特定の価値観等の維持・普及の問題に結びつける等、
必ずしも科学的、現実的課題解決の視点が政策に持ち込まれないように感じます。

格差社会論が叫ばれてもうずいぶん経ちます。
そろそろ教育においての処方箋を求めたい。
本書が示している、
教育制度、学校制度に関する提言をきちんと考えていくべきだと思います。