期待を裏切らない出来栄え
★★★★★
ジョン・ハートの「川は静かに流れ」を読了。作者の最新作「ラスト・チャイルド」の出来に惚れ惚れして、さかのぼって前作を読んだ次第。期待通りの面白一気読み本でした。
なんといっても読みやすい。物語の世界に入りやすい。映画的な作品です。
最新作もそうですが、本作も現代アメリカの家族、それも負の部分に焦点を当てている。その家族の秘密を主人公が薄皮をはがすように、突き止めていく。世界観は私の大好きな、ロス・マクドナルドと共通します。そのある種の冷たさの中で、主人公は苦悩するのです。家族という、最も自分に近い集合体で起こる悲劇の数々を。その要素について、受け入れられるか、受け入れられないかで本作の評価は大きく変わります。私は受け入れることができました。
本作のタイトルにもなっていて、作品上も重要な位置を占める「川」。そうなのです、川沿いで生活したことのある人間ならわかると思いますが、川沿いの生活は素敵なのです。水のある生活、その水面をみているだけでも、自分の悩みも流れて行ってくれるようです。それだけでなく、単純に身体的にも気持ちいい場所です。流れる風、水の音。あーいいなー。
そんなところも、心に響いた一因でした。
ミステリーとしても面白いが、それ以上に「人間」が生きている
★★★★★
確かにこの小説はミステリー小説なのですが、その「ミステリー」と言うこともさることながら、「家族」を、「人間」を扱った小説として圧倒されました。
物語は、5年前に有らぬ容疑をかけられ無罪となったもののいたたまれなくなり、故郷を後にした主人公のアダムが友人のダニーの懇願に一端は断ったものの帰る所から始まります。
その5年間を経てなお、彼を巡る事態は変わっていず、逆に原子力発電所の誘致の問題で、彼の一家も周りから反発を食らっていました。
そんな中で、彼の周りには襲撃事件や殺人事件など様々な事件が起こり、5年前の経緯から彼も容疑者の一人として疑われます。
こうした「ミステリー」としての「謎」を追ってゆく楽しさも文句なしです。
しかし、それ以上に、一人一人の登場人物の心理描写が素晴らしく、その人と人の関係の「どろどろ」具合が何とも言えません。
そのバックには、美しい田舎の状況が見え隠れし、その「人間」と「自然」と言う対比も素晴らしいし、「人間」と「人間」(ここでは家族であり、友人であり、恋人であったりします)の関係の表現も見事です。
そして、そこでは人間のつく「嘘」の後ろにあるものや、隠されたものの意味合いが、実に微妙な意味合いを持って登場します。
作品が「ミステリー」であると言うことで、具体的に表現は出来ないのですが、素晴らしい小説だと思います。
題名の意味?…もあるけど高評価、今後に期待
★★★★☆
本作品は、2008年度
アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞を受賞した作品です。
物語は主人公の<僕>、20代後半のアダム・チェイスが
ニューヨーク州・マンハッタンから、
ノース・カロライナ州・ソールズベリに向けて
車を走らせているところから、幕を開けます。
きっかけは、友人のダニー・フェイスから
町に戻ってきてほしいとの電話があったから。
じつは、アダムは5年前に殺人事件の濡れ衣を着せられ、
故郷を追われたという過去があったのです。
この冒頭で、読者は、
【謎1】友人ダニーが、アダムを呼び寄せた真の目的は何か、
【謎2】5年前の殺人事件の真犯人は誰だったのか、
という2つの謎を提示されたことになります。
本作品の展開が巧いのは、
これらについて読者が考える時間を与えず、
次々と不穏な出来事が発生し、
遂には新たな殺人事件が発生してしまうところ。
以後、この【謎3】新たな殺人事件の真犯人は誰か、
という点を主軸に物語は展開していくのですが、
作者が冒頭の「謝辞」で述べているとおり、
本作品は、家族を巡る物語であり、
アダムが5年前に関係を絶った
家族(父、継母、義理の弟・妹)や、
家族同然のドルフやグレイスとの
人間関係がどうなっていくのかについても、
絶妙の筆さばきで綴られていくのです。
570頁ほどの長さではありますが、
読者は物語に引きずり込まれ、
あっという間に結末を迎えるのではないでしょうか。
ただ、最後には、
【謎3】の真相は解明されるのですが、
ここでひとつ残念な点が。
それは、【謎3】に押されて、
【謎1】や【謎2】が付け足しのような
感じになってしまったことです。
特に【謎1】は、モヤモヤ感が抜けないまま。
私は冒頭の謎がスッキリ解明されるミステリが好きなので、
ちょっと減点かもしれません。
また、題名の意味についても、
せっかく冒頭で美しい川の描写をしていたのに、
結末であまり活かされていなかったようで、
残念な気がしました。
翻訳物にしては読みやすい
★★★☆☆
(初の書評です。慣れていない点をお許し下さい。)
ミステリーやサスペンスが好きで、日本の作品をたくさん読んでいる人には、洋書の翻訳作品は読みづらい事が多いです。原文に忠実な故、1.外国の人の言い回しやウィットが把握しづらい、2.それを日本語化してもスムーズに繋がらず、頭にすっと入らない、3.描写に比喩や暗喩が多いのが主な理由かもしれません。
そんな中、この作品は最初さえクリアして読み進めてしまえば、日本人にも原文で読んでいるような感覚を与える、踏み込んだ翻訳だなと感じました。中で「それは黒人だったか?白人か?」というような問いに「赤首(野郎)だった」みたいな表現があり、それにはプっと笑ってしまいましたが。レッドネックって日本語で赤首で通るんでしたっけ。無教養の田舎モン的な意味がとれるのかな。
作品自体は、翻訳を読むと、主人公(を含め他の登場人物も)がほとんどいつも怒っている、憤りを感じている、苦虫を噛み潰しているという印象を感じます。それゆえ、読者も常に肩が凝る様な状態にさせられます。原文ではどうなのか、機会があれば読んでみたいです。
家族という絆という名の鎖
★★★★☆
ミステリーが好きだ。ミステリーの「話を終盤にむけてまとめていかなければならない所」が好きだ。もちろんそうじゃないミステリーもあるけれど、私が好きだと思うのはそういう本が多い。
川は静かに流れは、久しぶりに読んだ長編ミステリーの中でも心に残るものとなった。
この話は、家族という鎖が話の肝になっている。
家族の仲が話をつくりだしているから、ミステリーとしてより良い意味で「面倒」になっている。
家族がこんなに複雑に絡まっていなければ、この話はミステリーとして成立していない。逆に家族が複雑に絡まっているからこそ、面白いミステリーだ。
人間には立場があって、気持ちがあって動いている。
意味がない行動なんて、きっと何一つないのだ。「なんでこんなことしたんだろう」と思うような行動にも絶対「気持ち」がある。そんなの分かってて、でもうまくいかないから面白いのだ。
この話はたくさんの事件が次から次におこらない。人間を真ん中にもってきている話の場合、それが一番だと思う。テレビドラマのように暇なひとが離れてしまう場合は3分に一度なにか起こるべきだけど。一つの事件をたいせつに、根っこにもって進む話。そしてたぶんだけど、和訳が上手な気がする。海外の小説であらすじを読むと面白そうなのに実際読み進められない本が私には多くあります。そんな中でこの本はとても読みやすかった。
旅行にいく前にかった本だったけど、旅先でお酒のみながらゆっくり読むには最適な本でした。