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サマー・アポカリプス (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

価格: ¥987
カテゴリ: 文庫
ブランド: 東京創元社
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読書の重さと軽さ ★★★★★
 傑作である。読書の愉しみを知る総ての人に薦める。
 矢吹駆は、パリで、コルベールが編纂させた、異端カタリ派に纏わるドア文書の謎に挑む。協力者の下には、カタリ派の、黙示録の呪を記した脅迫状が届いていた。駆は銃撃されるが、調査のため、ナディアたちとともに、中世にカタリ派が繁栄していたラングドック地方に滞在することになる。滞在先である財閥当主の豪壮怪異な別邸で、ドイツ人が殺され、黙示録の呪は現実のものとなる。その後の連続殺人事件、ナチのオカルティズムが絡んだ知られざるサン・セルナン文書の探索と、事件は縺れに縺れた展開を見せる。
 舞台が整うまでは少し退屈したが、これ以上ない舞台が整い、紆余曲折ののち結末に至って、見事な解決に導かれる。オーソドックスなミステリーとしての完成度は高い。
 だが、最高だと思ったのは、論理的な展開自体ではない。オーソドックスなミステリーの味を楽しみながら、いつしか、様々な人生の描写に魅せられていた。話が進むにつれ、ちりばめられたガジェットと見えたものが、重みを持った実在性を帯びてくる。中世に異端カタリ派が繁栄していたラングドック地方の風土が、一人の男の特異な、だが毅然とした生き方を納得させる。その生き方が、弱さをもった者を誤らせる。愛されなかったという思いが憎しみに変わった時、犯行は準備された。ナチのオカルティズムが、思わぬ人を思わぬ形で、悲劇の舞台に立たせた。長い時間が流れ、多くの人にとって悲劇は終わったのだ。
 さて、前作から引き続く、純粋な悪に対する考察はどうなったのか? 少なくとも、駆は、前作と変わらず、思想的に対峙するものを追い詰め選択を強いる。作者は、駆に、そのような態度をとらせたが、その結果から考えると、結論を引き延ばしたようにもみえる。自明な悪に加担するものを前にして、どのような態度をとるか、ということであるが、その問いに対する時、必ず呼び込まれている秘教的要素を読む側としてはどう考えればよいか? それに対する評価の在り様が、ミステリーを超えた部分での、読者の評価を決めるに違いない。とはいえ、それは小説を充分堪能したのちに、心に留め置かれて、折に触れて考えてみる、といった形にならざるを得ないものと思う。
盗まれた太陽/偽りの十字架 ★★★★★
●この世界の本質が弱肉強食だと知った上で
なおかつ自分が強者の側に立っていると自覚した上で
それでもなお、弱いものたちの痛み・悲しみが、どうしようもなくわかってしまうとき
人は、己の存在をかけて決起するのかもしれません
そういう意味では、この小説に登場するシモーヌ・リュミエールは
ジャンヌ・ダルクにも、あるいはマザー・テレサにもなりえた存在でしょう

しかし、矢吹駆の抱え込む巨大なニヒリズムが、その欺瞞を暴きだします
上を読めばわかっていただけるかとおもいますけど
シモーヌの世界など、初手から矛盾をはらんだものなのであって
世界に蔓延する「悪」を相手するには、あまりに脆弱です
彼女は、「バイバイ、エンジェル」において殺されたある人物の、ある意味仇討ちとして
矢吹駆に論争を挑み、ほとんど完膚なきまでに粉砕されるのでした
まるでそう、聖女が悪魔に食い殺されるかのように

けれど、矢吹駆のニヒリズムは、現代社会において安穏と生きるすべての人
つまりわれわれ全てが、おそらく持ち合わせているものでもあるのです

●物語は、ヨハネ黙示録に見立てた謎の殺人事件を軸にして進行します
前作であれほど痛い目を見たナディアでしたが、
またしても今回、旅行先で起こった殺人事件に、首をつっこんでしまいます
途中、矢吹駆の探索する「カタリ派の秘宝」に胸ときめかせたりしつつ、
緊張感あるのかないのかよくわからない素人探偵に精を出すのですが
そんな中、今作では彼女の将来を暗示する、不吉な伏線がいくつも張られることになるのです

「あなた、若いのにいけないことよ。権力を背景に他人を思い通りにしようとするなんて」

シモーヌに叱られてしゅんとなるナディアですが、「青銅の悲劇 瀕死の王」における
力任せの容疑者尋問を思いだすかぎり、その反省が、後に生かされることはないのでした

●ところで、ラスト近くのあの展開は、映画「太陽を盗んだ男」を意識しているのでしょうか
好みが分かれる ★★☆☆☆
個人的には退屈した一冊。探偵役の矢吹駆があまりにも無味乾燥で魅力がないように思う。
作者の精神的幼さが露骨に出た低劣な作品 ★★☆☆☆
直観推理を標榜する矢吹駆シリーズの第二作。私はミステリの中で前作(この場合「バイバイ、エンジェル」)の解説から始まる作品を他に読んだ事がない。読者は必ずしも作品の発表順に読む訳ではないから、この作者の精神構造には唖然とした。そして、キリスト教の異端カタリ派を中心とする偏狭な衒学趣味による思わせ振りな記述が延々と続く。正直、ここで読むのを止めようかと思った程だ。百科事典を引く暇があったら、トリックを練るべきだろう。

語り手は駆の友人ナディア、舞台はカタリ派の聖地の南仏ラングドックの屋敷。屋敷の主人は娘婿で有力な原発推進派。その娘のジゼールはナディアの友人で、ジゼールの恋人ジュリアンは優秀な核物理学者。そのジュリアンの姉シモーヌは反原発派の活動家で、パリでの初対面時に駆に奇妙な態度を見せ、その直後、駆とナディアは襲撃される。主人と歴史学者シルヴァンはカタリ派の聖地の発掘を計画している。一方、ドア文書と言う、カタリ派の財宝のありかを秘匿した記録の存在が示唆される。そして、ヨハネ黙示録の<四人の騎士>を模した四連続殺人が起こると言う趣向。第一の殺人は密室もどきの資料室が舞台で、ドイツ人の骨董商が被害者。凝っているようだが実は粗雑な創り。第二の事件のトリックには前例がある。ここから読者は異教論争と作者の青臭い善悪論を長々と聞かされる羽目になる。第三・四の事件は形式を整えるための完全な付け足しで、何の工夫もない。

宗教やオカルティズムや因縁談と言った贅肉を削ぐと、ミステリとしての骨格は驚く程脆弱。作者の精神的幼さが露骨に出た低劣な作品と言えよう。
黙示録の四騎士に見立てた連続殺人 ★★★★★
キリスト教異端カタリ派に関心を持つ矢吹駆は調査のため、ナディア・モガールとともに、
カタリ派の聖地であった南仏モンセギュ―ルにある、ロシュフォール家の山荘を訪れる
のだが、そこで奇怪な殺人事件に遭遇する。

被害者は、大理石の石球で撲殺された後、なぜか心臓に矢が射込まれており、
さらにそれと前後して、馬小屋では、白い馬が撃ち殺されていた。

続いて、逃亡していた事件の容疑者が、密室状態であった城壁都市の塔の一室で、
縊死体となって発見され、現場近くには、額を打ち抜かれた赤い馬の屍体があった。

さらにロシュフォール家当主の後妻が墜死したことで、犯人が新約聖書の
「ヨハネ黙示録」に見立てた連続殺人を行おうとしていることが明白になるのだが……。



第一の殺人では、ナディアと警察によって、関係者の綿密なアリバイ検証がなされますが、
その際にナディアが着目する「無傷の蝶の屍骸」という物証が秀逸です。

結果的には、真相に直結する手がかりではないため、読者をミスリードする仕掛けでは
ありますが、かといって、犯人が捏造したものでもないので、別の角度から事件の真相
を暗示する働きをしているといえます。

また、第二の殺人において、《見立て》の装飾と思われた馬が殺人の
ための、即物的な役割を担わされていた、というのも素晴らしいです。


本作の全体の構図としては、連続殺人犯とそれを巧みに利用しようとする超犯人、
さらにその超犯人を影で操る黒幕という軸があり、それと関連させながらも、別の
位相で、駆とシモーヌ・ヴェイユを模した人物との思想対決が設定されています。

駆にとっては、殺人事件の究明よりも、その思想対決こそが目的であり、
そのためには、事件の真相さえも、対決相手を揺さぶるカードにしてしまう、
というのが、本シリーズならではの探偵役のスタンスといえます。

そして、そんな駆の生涯にわたる宿敵というべきニコライ・イリイチの暗躍が
ほのめかされて終わる本作は、ミステリと思想対決の融合の完成度において、
シリーズ最高傑作といえると思います。