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ブラッド・メリディアン

価格: ¥2,310
カテゴリ: ハードカバー
ブランド: 早川書房
Amazon.co.jpで確認
ライトノベルの対極にある作品 ★★★★☆
しんどいなぁと思いながら読み進めていった.
暴力シーンの描写は具体的で,善悪の感情は込められていない.

詰め込まれた文章の中に,
19世紀半ばのアメリカ西部の気温や湿度,
いろいろな国の言葉,骨を砕く音,
ほこりっぽい空気の臭い,肉の腐る臭いが充満している.

「人間はなんのために生まれてくるのか」という哲学など
気にもしない虐殺に次ぐ虐殺

殺される者がかわいそうだとか,
名もなき少年の運命はどうなるのかなどの
通俗的な読み方を否定する虐殺また虐殺

片手間に読めるライトノベルの対極にあり
極端な状況下における人間を描き切った
マッカーシーの筆力を楽しむための小説だと思う.



虚無に覆われた荒野を行く殺戮行 ★★★★★
明確な起承転結がある訳でもない。心情描写も排除され、そう言えば一応主人公となる少年には名前も与えられていない。執拗に描かれているのは、ある一行が放浪する大地で繰り返される日の出日の入りの様子や雨を伴わない雷、荒涼とした風景、そして道行の途中から目的意識も希薄になった無差別大量殺人。1ページの中で暗示に満ちた夜明けがあるかと思えば、多義的な夜の描写もある。それがいつ終わるともなく延々と続く。読み続けていると不思議な浮遊感を覚えた。かなりグロテスクな殺害場面、ショッキングな死体の散乱(本書ではいったいどれだけの人たちが殺され、破壊された村や大地にどれほど屍が横たわっていたことだろう。小説でこれほど多くの死と向き合ったことはない)を目の当たりにしていると、いつしかえぐみも薄れ枯れ草のように無味乾燥としたものとなり漫然とそれらを受け入れていることに気がつく。だがそのことに対して驚きもなく感情の揺らぎもないのだ。これが虚無なのか。暴力だとか流された血だとか倫理とかを超越したまっさらな真空状態にこころが包み込まれているような感じだ。エンドレスなリフレイン効果。活字による洗脳。訳者もあとがきで記しているが同書は本当に「とてつもない」小説だ。本の帯には「映画化決定」と謳われていたが、下手に間違えると成人指定のスプラッター映画になるかも知れない。慎重な映像化が望まれる。追記。作中、異彩を放ち続ける「判事」の言動に出くわすたび、海外ドラマ「LOST」に登場するジョン・ロックが脳裏を去来していた。
独特の超絶技巧的文体で描かれる圧倒的な暴力 ★★★★★
本書は、現代アメリカ文学の巨匠コーマック・マッカーシーの邦訳書としては最新刊だが、順番でいくと、有名な<国境三部作>『すべての美しい馬』(’92年)、『越境』(’94年)、『平原の町』(’98年)や、アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した映画≪ノーカントリー≫の原作『血と暴力の国』(’05年)、ピュリッツァー賞を受賞し間もなく映画が上映される『ザ・ロード』(’06年)よりもかなり前に書かれた(’85年)作品である。

時は19世紀半ばのアメリカ開拓時代、物乞いや盗みで生計を立てていた14歳の少年は、「判事」と呼ばれる大男の誘いで、“頭皮狩り隊”とも言うべきインディアン討伐隊に加わる。本書では、彼らを虐殺し頭皮を剥いで売る悪逆非道の日々が延々と描かれる。

まさに他にあまり例を見ない衝撃的な凄まじい暴力の連続であり、残酷の極みであるが、この小説はアメリカの暗部を告発するというよりは、それら残虐行為と戦争を肯定し、賛美しているかのような印象を受ける。それは“悪の権化”である「判事」の存在感が圧倒的だからであろう。つまり、「こんな残酷なことは人間のすることか?」ではなく、「上っ面の正義や平和がなんだ。これこそが人間なのだ」というマッカーシーの訴えである。

本書でも、台詞に引用符をつけない、コンマを極力省く、心理描写や感情表現をいっさい排するといったマッカーシー独特の超絶技巧的文体で綴られる。自然も人間も動物も、そして人間の行う残虐な行為も、皆同等のレベルで、あるがままに平板で克明なリアリズム描写をしてみせている。

本書は、近未来を舞台にした『ザ・ロード』を、かなり時間をさかのぼらせた、一概に人間やアメリカの悪を弾劾するとは言い切れない、重層的な物語である。
その後の作品へと続く要素 ★★★★☆
物語は19世紀半ばのアメリカ西部。1人の少年がインディアンの討伐隊に加わることで過酷な運命に巻き込まれていきます。
血と暴力、人間の暗部を描き出す残虐性が詩的なまでに美しい風景描写と共に描かれています。
決して読みやすい物語ではないですが、ストーリーの苛烈さに惹かれて一気に読んでしまいました。

日本では「血と暴力の国」「ザ・ロード」の後に翻訳されていますが、本国での刊行は1985年ということで、〈国境三部作〉よりも前の作品となります。
そういう視点で見ると、この作品は作者のその後の作品の要素を垣間見ることができます。
〈国境三部作〉で描かれる少年の(暴力や血を流しながらの)成長や馬とのモチーフ、「血と暴力の国」での乾いた砂漠の風景や銃の乾いた暴力性、
「ザ・ロード」の蛮族の残虐さや火のイメージ。全ての作品に通ずる悪の存在と人間の運命。
刊行順が逆だったら作者の集大成とでも言いたくなる内容です。
見方を変えると現代を描いた「血と暴力の国」を境に、近未来の「ザ・ロード」を過去へ反転させた世界とも思えます。

最後にこの作品の鍵となるホールデン判事の存在感はやはり圧倒的です。世界の悪や不条理を体現させる存在として主人公の運命を左右します。
(読んでいない人のために書けませんが)ラストシーンは本当に鳥肌ものです。

作者はこの作品の前にも何冊かの作品を刊行しています。
作者の起源を知る上でも、日本での翻訳が待たれます。
いつのまにか血を求めている自分に気付く ★★★★☆
ザ・ロードより読みづらく時間を置いたら長く未読の棚に置かれる事必至。
なので一気に読み読後のいまはちょっとした麻痺状態になっている。
まだ、帰って来れない。無情感?

ザ・ロードの近未来に対し本作は開拓時代の混沌とした無政府状態の西部アメリカ、メキシコが舞台。
西部劇でおなじみの事がもっと汚く臭くリアルに描かれている。
解説をよむと修正主義西部劇というらしい。
西部の自然描写は想像しづらいがグーグルアースで見ながら補っていった。
自然描写あと必ず凄惨な血の描写がある。
しかし凄惨と思うのは最初だけで読み進める内にあまりにも自然に思えてくる。
いつのまにか血をどんどん期待してしまう。
生きる事も死ぬ事もあまり大差ない、未来も過去も大差なく、永遠に人間は戦い血を求める。
それがこの本を読むと全然、非情に思えないから不思議である。