「ホラー」ではなく極上の社会派ミステリ
★★★★★
大いに不満がある。
この作品にではなく、世間における本作の認識のされ方について。
本作を「ホラー小説」と捉えると、この作品の価値を見誤る。そうではなく、この作品は「社会派ミステリ」に分類されるべきと思う。それも極上の。
「ミステリ」の理由は、殺人事件がおこるから。そして「社会派」の理由は、生保業界の話題が、見事に物語の本筋に絡めてあるから。
一概に、「家族」を対象とした「連続」保険金殺人というのは常人の神経でなせる技でないから、その犯人はよほどの異常性をもって設定されてないと、話として嘘くさくなる。よってそのような設定が入念になされた犯人像は、おのずからホラー色を帯びる。
たとえば強度のストーカー気質とか、殺傷行為にかんする鉄のような実行力とか、人間的な感情の欠損とか、そのために死体の横で平気で飯が食えるような鈍感さとか、だから住居は衛生状態を欠いて異臭を放っているはずとか、いずれもこの種の連続殺人犯には欠かせない要素であり、それが描かれてなかったら逆に嘘くさい。
つまり本作のホラー性は、読者を怖がらせよう的な商売心よりむしろ、連続保険金殺人という重いテーマに真正面に取り組んだ結果、必然的に生まれてきたものだと思う。だからこそ本作の菰田幸子は、圧倒的なリアリティと必然性を帯び、ヒリヒリと怖いのだ。
もしこれが単に「包丁もった殺人鬼が突然襲ってきました」みたいな、13日の金曜日的なノリだったら、怖くも何ともない。必然性のないスプラッタは一過性のスリルがあるだけで、怖くない。だからもし、13日の金曜日をホラーと呼ぶのなら、本作をホラーと呼んで欲しくない。本作はもっと真面目に、保険金犯罪に真正面からとりくんだ社会派ミステリであり、ヒリつくようなホラー感は作者の圧倒的な力量から二次的に生まれたものだと思う。
想像するに、本作が「ホラー小説大賞」をとったことから誤解が始まっているのではないか。
もし本作が江戸川乱歩賞受賞作だったら?
イメージもだいぶ異なっていたように思う。
いずれにせよ、本作がここ数年の最高傑作のひとつであることは間違いない。
オススメ
★★★★★
今までこれ程本にのめり込んだことがあったかなって位面白く、追われる気分に浸りながら若月になりきり、恐怖感満点で読みました。貴志さんの本を読んだことない方はぜひこの本から始めてみては?
最初はぐいぐい
★★★★☆
引きこまれて通勤中も歩きながら読みましたが、後ろにいくにつれ、幸子のモンスターぶりが逆に怖さを薄れさせた気がしました。
他作品ほどではないが面白い
★★★★☆
「天使の囀り」を読んで著者のファンになったものです。
レビューで絶賛されているので、今回もかなり期待して読みました。
結論から言うと、間違いなく面白いのですが、
「天使の囀り」で感じたような圧倒的な恐怖感はなかったです。
また個人的には、「クリムゾンの迷宮」のように読むのが止めれないほど
惹かれるストーリーでもなかったです。
全体的に著者の他作品と比べると、インパクトに欠ける印象。
強弱はあるものの、全体的にゆったりした展開が続くので、
もうちょっとサクッとした分量で良かったように感じました。
貴志祐介の作品が初めてで、アクの強くないものを求めるならオススメかもしれません。
ホラー好きには到底満足できる作品では無い
★★☆☆☆
これが皆さんの言うように現代日本ホラーの代表だとしたら、私はもう今の日本の作品は読まない。
結末のクライマックスへ向かうクレッシェンドが弱い。
劇的な演出(包丁を持った人間が襲ってくる)からして致命的。
床下に積み重なる死体の描写も私には物足りない。
想像力に訴えかけてくる力がない。
ホラーを読み漁っている人間には到底満足できる作品では無い。
これだったらケッチャムでも読んどくわ…