文芸の自立とジャーナリズム
★★☆☆☆
おとなりの流山市に行く度に、味醂の蔵元のところに小
林一茶が来ていたと聞かされてきたので、そのバックグ
ラウンドを知りたくて本書を手にしました。
教育の普及と学問の興隆が、文雅を媒介に身分制度
を逸脱する独立した自由な個人を広く生じしめたこと、そ
してその中からさまざまなメディアを用いて売名し、地方
遊歴を行ってそれを主な収入源とする職業文人さえもが
出現したことが記述されていたので、その目的は果たせ
ました。
ただし、それだけで済ますには惜しいことが、本書には
盛り込まれています。例えば、商都大阪での詠史詩の
サロン活動が頼山陽の『日本外史』につながること、蘭
学の普及は奥医師を中心にしたサロンが仲立ちとなっ
たこと、さらには明治の硯友社や龍土会もがこの系譜で
とらえ得ることなど聞き捨てならぬことがたくさんありまし
た。
日本の文芸史を考えるときは、参照する文献として留
意しておいたほうがよいと思います。