淡々と、重い
★★★★☆
著者の実体験を元に、シベリア抑留の実態を淡々と書いた直木賞受賞作品。
飢え、寒さ、本能、暴力と、映像にしたら耐えられないほど過酷であろう描写が多く含まれるが、目を背けずに一気に読みきることができる。読後感も暗くない。
ベテラン作家になってから書かれた作品であるせいか、娯楽的な部分もあるので、抑留の厳しさをより知りたい人には、他のシベリア関連のドキュメンタリー作品と合わせて読むことをお勧めする。
いずれにせよ、惰性で生きる現代の日本人として、持てる想像力をフルに使って活字で読むべき一冊。
「暁に祈る」吉村隊からの生還
★★★★☆
筆者は,終戦後,モンゴルの収容所に抑留され,「暁に祈る」(ノルマが達成できない抑留者を,極寒の中,裸で外に縛り,多数を死亡させた)で有名な吉村隊にも配属されながら,何とか生還した。
筆者の場合,学生時代に見た映画の内容を講談調に説明するという特技を持っていたため,比較的優遇されて過ごすことも可能だったようだ。まさに,芸は身を助く,である。
また,シベリア抑留といえば,同胞に「スターリン元帥万歳」を強いた「民主連盟」が有名だが,本書を読む限りは,モンゴルの収容所では「民主化」の嵐はなかったようだ。
重いテーマではあるが,筆者の筆力ゆえに軽く読める一冊であった。
理不尽な世界
★★★★★
私の祖父もこんな地獄を体験したのかと思うとゾッとします。
政治としての戦争でなく、人としての戦争を教えてくれる本。
後味の苦い幕切れ
★★★★★
俘虜となった兵士たちの、敗戦の後にやってきた新たな地獄の日々。容赦のない暴政の前に、人々の命は紙くずのように費えていく。
つきはなしたかのような幕切れは、際限なく膨らんでしまった人間の心の「底なしの闇」を見せつけられるかのようで胸が痛んだ。戦争の理不尽さが読者の骨の髄まで突き刺す。