前作にあったような歴史ミステリー的な趣きは影を潜め、よりエンターテイメント色が強い、中編らしいドライブ感のある読み物になっています。
歴史推理らしい要素は日本(和/倭)国名の起源についてや鬼門にまつわるものが組み込まれていますが、本作最大のテーマとして、夢と現実に関する解釈が面白かったです。肉体は借り物に過ぎず、心こそが本質である、というのは確かに一分の理があるといえます。
ラストがハッピーエンドというのは、結構あっさりと人が死ぬこのシリーズにあってはちょっと綺麗にまとめすぎ、という感じがしないでもないですが、まだまだ続けよう、という作者の欲目なのかもしれません。ファンとしては嬉しいところもありますが、ちょっと複雑かも。
『蒼夜叉』では、追っていく相手が誰なのか何なのかわからずに、資料や伝説、神話などをもとに推理推測をすすめ、少しずつ少しずつその正体に迫っていく過程がゾクゾクするほどおもしろかったのですが、本書ではそういった興奮は少なめです(相手がわかっているのだから、当たり前なのですが)。それでも、著者独自の史観から見た「和(倭)国」についてや大和朝廷の東北地方の経営方針についての考察などとても興味深いものがあるし、新たな謎の敵の出現や前作でやりあった敵がどこから来たのか、どこへ行こうとしているのかなど、もう盛り沢塊??、待ってたカイがありました。
さあ、高橋克彦の描き出す不思議の世界・裏日本史の世界にドップリと浸りきりましょう!