なんたることか
★★★★★
2003年にカッパ・ノベルスとして出たものの文庫化。
8篇を収める短編集である。
1994年の『本格推理3』に掲載された「密室の矢」から、カッパ・ノベルス版での書き下ろしまで、かなり長期間の作品が集められている。ところがである。そうした「過去の作品」を使って、壮大なトリックが試みられているのだ。仰天する。嘆息する。こんなことが可能だとは!
なおかつ、個別の短編の完成度も高い。密室トリックが多いのだが、いずれも素晴らしい。
ストーリーに仕掛けられたタイプのトリック。そういうのが好きな人にはたまらない一冊だろう。
受け継がれていく“名探偵”という宿命
★★★★★
連作を通じて、作者にとっての“名探偵像”を描き出してみせた意欲作。
結末では、冒頭に掲げられた、“名探偵は生き方ではなく、宿命である”
――という文章の意味が深く腑に落ちるある趣向が仕掛けられています。
※収録されている各短編の内容については「コメント」をご参照ください。
グッタリの読了感
★★☆☆☆
短編なのですが連作のようでもあり,探偵が順番に3人登場してきます.
で,この3人の入れ替わり方がちょっと変わっていておもしろかったです.
特に1人目から2人目の切り替わりは呆気に取られるほどで,
それまで活躍していただけに「え,ホントに?」という感じ.
また2人目のラストも「まさか」で事件よりも印象的だったほど.
トリックなどは1-2人目がかなりギッチリで3人目は少し軽めの感じ.
そのせいかこの3人目の登場するいくつかが読みやすかったです.
ただ,読み終えたあとにグッタリとした疲れのようなものが残りました.
どうも息の抜きどころがなくてあちらからの一方通行のような感じで.
ほかにも探偵たちをはじめ、登場人物たちへの感情移入もあまり….
また『本編必読後のあとがき』についてですが,
現実と物語の境目がないのは違和感があって好きになれません.
カタストロフィの方向性
★★★☆☆
著者柄刀一は生真面目なまでに『謎とその解決』にこだわりを見せ、常にミステリを真摯に追いかけようとする作家である。この作品集でも、著者は常に魅力的な謎を読者に提示し、探偵役はその謎を収斂させようとする。今回の作品集のキーワードは、『探偵の存在意義』であり、そしてもう一つのキーワードが『オズの魔法使い』である。それらを作者なりに消化した手腕は評価できるが、提示される謎に対してあまりにも人物達の存在感が希薄とも言えるかもしれない。終章で示されるカタストロフィ、これをどう捉えるか、読んでいただきたい作品である。くれぐれも後書きを読んでから本編を読んだりしないように警告したい。