スターリンの独白
★★★★★
「ドキュメント」というよりも、史実の合間に著者の文学的想像力を駆使した極めてユニークなスターリン論。
スターリンと芸術家達との闘いの記録という体裁ではあるが、読むにつれ芸術家の存在は背景の一部でしかなくなり、オフラナ・ファイル(スターリンが帝政ロシアの秘密警察の一員であったという資料)の存在におびえるスターリンのパラノイア的自問自答が、本書の主題であることに気づく。
スターリンが、自身の疵と闘い、過去を克服するために、芸術家をはじめとする数々の粛清が必要とされた。
芸術家はその自問自答の周囲を、おびえながら「二枚舌」でやり過ごすしかなかった。
トロツキーなど一部の人間はそのスターリンの特性を理解しており、そのことがさらに粛清を加速させる。
著者の他の労作と併せて読む必要があるが、スターリン理解への一つの達成だろう。
亀山さんの作品
★★★☆☆
ドストエフスキーについての書籍(「ドストエフスキー父殺しの文学」「悪霊神になりたかった男」)ではあれほどいきいきと魅惑的に、
読者を招き寄せるように独特の文体で語った亀山氏、その文体はここにはありません。
スターリン一人称で語られるモノローグ、これがこの書物の性格を非常に集約しています。
スターリンになること。
それなんです。
著者もスターリンへの憎しみを初めて告白
★★★★☆
亀山さんの新作です。今回はドストエフスキーではなく、大審問官スターリンがテーマです。オフラーナ・ファイルの幻影に悩まされ続けるスターリンの深層心理にまで、著者が、その解釈を投影させていく部分(スターリンによる一人称モノローグの導入)があまたのスターリン本との違いでしょう。著者は”社会主義リアリズムの信奉者”を、”未来を予見する幻視者のメンタリティの持ち主”と規定します。そこでは”スターリンが描く未来の夢をどれくらい共有できるかが、すべての価値基準になっている”わけです。したがって、この作品の目的は、その状況の下で、”スターリンと芸術家たちのおりなす圧倒的な非対称性を古典的な一点透視法で描く”ことにあるわけです。このなかなか類書にはない目的を理解し、どこまでが歴史であり、どこからが著者の想像力の飛躍なのか、判然としない部分をうまく通り抜けていくためには、エピローグをまず最初に読むのがいいかもしれません。