大局的な視点から第1次世界大戦を理解する
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「今世紀の大戦の異常さは、人々が類例の無い規模で殺しあったということよりも、途方も無い数の人々が自らの命を投げ出そうとしたことにある」。
第一次世界大戦について様々な角度から解説している。上下巻構成で、こちらが上巻。対象は1914-16。個々の戦いについての解説はそれほど詳しくはないが、軍事、戦略、補給、人物、何よりその位置付けと意味についての巨視的な視点に立った解説が優れている。一部カラーを含む写真や地図も豊富に収められている。
シェリーフェン・プランの誕生とモルトケ、東部戦線と西部戦線の戦略的な違い、ドイツの海軍力の増強がイギリスとの緊張を引き起こしたこと、カフカスやアフリカ戦線とそれらがもたらしたもの、日本では知る人が少ない過酷なセルビア民族の戦争、王朝体制から国民国家体制への移行にこの戦争が果たした役割。日本の青島攻略についても触れている。
本書を読めば、今日まるで旧日本軍の専売特許だったように語られることの多い敢闘精神至上主義が、降伏しないというような点を除けば、むしろこの戦争まではヨーロッパでもかなり一般的であったことがわかる。近代戦における大量の鉄量の前に、戦果が上がらないのに犠牲だけが増え続けたことで、修正されていったのだ。また、一大決戦によって決着をつけるという考え方も、総力戦の前に変更を迫られたことも分かる。大量の物資を消費する戦いになったために補給が問題であったこと、海軍力によって通商網に打撃を与えることの意味含め、ここでの教訓はその後の日本にもっと生かせであろうことが多いように思われる。
歴史を学ぶということは、単に事件や人物を覚えるということに限らない大きな意味と広がりがある。特に、このような大きな戦争は、その後の世界に及ぼした影響も大きなものがある。本書は、必ずしも軍事マニア向けに特化したものではなく、人類の歴史に刻まれた痛ましい1ページとしての第一次世界大戦の全体像を総合的に理解したい方にお勧めである。
待望の第一次世界大戦本
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これまで多数の戦史本を出版してきた学研が、ついに第一次世界大戦に手を付けました。史上初の本格的な総力戦となり、ソビエト連邦を成立させるなど、近代史の転換点となったこの戦争ですが、日本では自国が大規模に参戦しなかったためか、第二次大戦と比べていまいちマイナーです。そのせいで、マニア以外が読んで理解しやすい本も少なかったわけですが、今回、学研の歴史群像シリーズの1冊として第一次大戦が取り上げられたことは、非常に喜ばしいことです。
タイトル通り本書は上巻で、14〜16年、開戦から総力戦にいたる経緯が、写真とイラストを使ってビジュアル的に解説されています。この時代の著しい戦術の変化だけでなく、各国の政治状況や要人たちの人物像にも多くのページを割いています。当時のカラー写真(着色写真にあらず)が掲載されており、塹壕の構造や兵器、軍装も見ることができます。日本についてもドイツ軍と交戦した青島攻略戦が紹介されています。
第一次世界大戦を複数の視点から捉えた本なので、一つ一つの解説はマニアが期待するほど詳細ではありませんが、抑えるべきところを抑えており、戦争前半の流れはほぼ完全に理解できます。古い戦争から近代戦へといたる過程もよく分かります。
下巻はアメリカ参戦からロシア・ドイツ革命あたりになると思いますが、発売が楽しみです。