一面しか見ていない
★★☆☆☆
著者の言う「不思議の国のM&A」とは、例えば買収価格が明確に提示されなかったUFJホールディングスの買収や、経済合理性だけでは説明がつかない北越製紙の買収劇など。これらの事案についての本書の指摘は正しいと思うが、ここで採り上げられているのは日本で行われているM&Aのほんの一部に過ぎない。話題性があったというだけで、これらの事案をもって「不思議の国のM&A」と称するのはいかがなものか。日本のほとんどのM&Aはもっとまともに行われていると思います。
分かっているんですけどね
★★★★★
正直なところ書かれてある内容は日本人には分かっていることなんですけど。外国人には分からないですよね・・・ということなんだろうと思う。本音と建前論。建前としては欧米の証券取引法(今はこう呼ばない)の服を着て・・・本音は昔のままのなあなあ経営をやってきたわけですから。ただ、これからは建前が前面に出てくるのは必至の環境になってきておりますから、新しい時代の経営(資本政策)を身に着けないと知らぬ間に自分の会社が他人さんのものになってしまう時代が来そうです。この本については、面白いですしうなづきながら読めるところが多かったです。「はげたか」は「はげたか」でなかったわけです。黒船が来た時代に似ているような感じがしますね。
一人でも多くの経営者に読んでほしい本
★★★★★
2007年に読んだ本の中で最も自分にとって役に立った本ではないかもしれないが、一番一人でも多くの人(特に経営者)に読んでほしい本である。
本書を読むといかに日本の経営者が自分たちの保身のために株主価値を破壊してきたかよくわかる。株主軽視は借金を踏み倒すのがいけないことと同様にいけないことだし、そういった風潮がひいては国全体を貧しくしてしまうのも経済の仕組みを勉強すればわかること。ただ、よく感じるのは日本の経営者は倫理的に腐敗しているというより、経済の基本的なところを理解していないケースのほうが多いのではないかということ。日本の経営者の話を聞いていると、ことコーポレート・ガバナンスに関してはスティール・パートナーズの代表が「啓蒙する」と言いたくなる気持ちもわからなくはない。保身をする側のマスコミが垂れ流すアンチ株主のプロパガンダは100%感情的もしくは問題のすり替えと言っていいのだが、日本の経営者はそのことを本気で信じている節さえある。本書はなぜ株主を向いて経営をすることが日本の非常識でも世界の常識なのかペンタックス、北越等の実例を交えて非常にわかりやすく書かれてあるので是非一読してみてほしい。最終章は信念を持って日本の非常識と戦い、「額に汗して」働く投資家へのエールのようにも読めた。
著者はウォーレン・バフェットの本も書かれている方で、そちらのほうもお奨め。
日本の銀行や株主のダメッぷりが満載
★★★★☆
筆者は「市場と法」の三宅氏同様、日経の記者。
ゆえ、取材に基づく情報量の多さは評価に値する。
特に、フタタを巡るAOKIとコナカとの争奪戦において、対象会社のフタタのFAが三井住友、買い手のコナカのFAが大和証券SMBCであり「出来レース」であったこと、にもかかわらずフタタの株主は誰も訴えなかったという日本M&Aの「摩訶不思議」などは驚かされる。
日本の銀行は、株主利益なんて何も考えていないのだろうし、日本の株主も著しくレベルが低い。
もっとも、ネタの中には、一橋の服部先生をはじめとして、既に述べられているようなネタも沢山あり、新鮮さがないのも事実。
次回作は、自分のネタで勝負して欲しい。
日本を代表する経済紙の威厳
★★★★★
本書は日本における奇怪なM&Aの実態を事実をもとに描き出した作品です。
「不思議の国」とは言い得て妙だと思いました。
具体的には、価格を議論せずに抽象論だけでM&Aを合意するケース(HOYAとペンタックス、UFJと東京三菱、楽天とTBS)や提示価格の低い方に売却されるケース(王子製紙と北越製紙、新日本無線、ニッポン放送)などの事例を挙げて、いかにこの国のM&Aが理不尽な慣習のもとに行われているかを鮮やかに語っています。
第一線の記者としての現場感あふれる記述は非常にエキサイティングであり、また、事実に基づいた非常に客観的な描写であるため、より一層「奇妙さ」がひきたつ印象を受けました。
ともすれば、引用されているコメントを発した本人を個人的に愚弄するかもしれないような内容になっていますが、そこはこの国のM&Aが正常化することを切に願う著者の思いや、日本を代表する経済紙としての出版社の自負や威厳を感じました。
その思いを強く感じ、5点。力作だと思います。