ホンダの現場力を実感できるMOTの本
★★★★☆
エンジン技術者でホンダの3代目社長の久米氏による本。
著者が体験してきたホンダの実例が興味深く、引き込まれてしまう。
本書では、主に下記の3つの点に関して、著者の経験から述べている。
(1)技術・製品開発の戦略性
空冷エンジンの失敗から学んだ、シビック、CVCCエンジンの開発戦略
(2)市場品質問題への対応
米国市場での不可知な使用環境に基づく不具合への対応
(3)ひらめきの構図
レース用エンジン開発を例にひらめきの構図を仏教的に整理
筆者は(2)の市場品質への対応に関心があるが、著者が提唱する
「市場実験モデル」について、詳細な説明が欲しかった。
(3)のひらめきの構図に関しては、仏教的な考え方との関係付けがたいへん
興味深いが、若干概念先行で難しく、今後より洗練化されこなれた形で著作物
として発表されることを強く期待したい。
現場に答えはある
★★★★★
本田技研工業の3代目社長 久米是志氏の開発改良の実践記録ともいえる本で
ある。非常に面白い話、満載である。
p129 墜落した全日空機について述べた後
以下引用
”新しいことの導入による新しい不具合の結果を見た後でならば
「何でこんなことがわからなかったのか?」と思うような明白な問題でも
それを事前に予測することは難しいものです。
「新しいこと」について起こる問題は起こることを予測していないところに発生するというのが経験的原則のように感じられるのです。”p.171
"先達の知恵と一週間にわたるレポートとの格闘が気付かせてくれたのは、
結局は「経験しないことは知ることができない」という原則でした。”
p172
対策は”問題が起こったからではなく、問題が起こるかどうかを検証する関門が必要なのです。そのためにも、やはり過去を振り返ることが手がかりでありました。”
久米氏のおっしゃるとおり、”「現場、現物」というように言語情報だけでなく
不具合現象を起こした現場を経験すること、間接的な言語情報では入ってこない使用環境を直接的に感知する機会を作る”ことが、事実の把握には鍵になってくるのだろう。
過去の経験に縛られず、問題の起きている現場を偏見なしに見ることの
大切さがよくわかる本である。
プロジェクトリーダー必読の書
★★★★★
「技術開発の奥義を伝えたい」という想いが全編を貫く、熱血の書。
本田宗一郎の薫陶を受けた久米是志元ホンダ社長が書くのだから、エピソードは面白くないわけがない。失敗学の畑中先生の話にも似て、メーカーだけでなくどの業界にも通じる。要は、ある目的に向かってプロジェクトを進める方法には普遍性があるということ。
ただ後半、プロジェクト開発中の技術者の気持を、仏教の精神世界で説明するのはユニークだが、哲学的でちょっと難しい。森ロボット博士等の著書でも出てくるが、言語で説明しきれない「ひらめき」のプロセスを語るのに、本当に仏教が必要なんだろうか。後付のような気がしないでもない。
私はむしろサントリーの創業者の言葉「やってみなはれ、見とくんなはれ」あるいは、本田宗一郎の「やってみなけりゃ、わからんじゃないか」で止まっても良いんじゃないかと思った。
20年前斬新な株主総会の議長だった著者の、好々爺然とした近影を見て、時の流れを痛感した。久米さん、気持ちの一杯詰まった本を有難う。