学力の地域間格差とテスト結果の公表のあり方
★★★☆☆
「全国学力テスト」によって明らかになった学力の「地域間格差」と、その「結果公表のあり方」について、著者の考えを記したコンパクトな本。「その功罪を問う」というサブタイトルは若干的外れかと思う。
3部構成となっており、まず、かつて1950年代半ばから11年間に渡って行われていた全国規模の学力テストの実施背景と主な知見について述べ(1章)、次いで、そのテストと比較するかたちで「全国学力テスト」の実施背景と主な知見について述べている(2章)。また、「テスト結果の公表」という観点から、同様のテストが実施されているイングランドの教育制度について概観し(3章)、最後に「全国学力テストを今後も続けるべきか」について著者の考え(データを集めるのは当然だが、これほど規模の大きな調査は10年に1回でよい)を簡潔に述べ締めくくっている。「学力低下」問題については論じられていない。
本書によると、かつての調査結果に見られた、都市部と非都市部の間の大きな学力格差は現在では非常に小さくなっているという。代わりに現れたのが、都市化の負の側面が進行し安定した生活・教育環境の崩壊してしまった地域とそれ以外の地域との間の学力格差。
本書の後半は、新自由主義的な教育改革(教育サービス分野における競争主義の導入)が、こういった「しんどい地域」の教育再生策として有効か、といったテーマ性が強くなっている。著者は、テスト結果の(市町村別・学校別、等の)公表はメリットよりデメリット(競争の激化と学校の序列化)の方が大きいという立場を採っており、学校選択の自由化と相まって「テストに追い立てられている」イングランドの教育制度の「世知辛さ」についても述べている。
学力の地域間格差とその原因と対策、という後半のテーマは興味をひくものであったが、紙数が少なく読後の印象としてはやや物足りなさが残った。本格的に論じた他の本も読んでみたいと思う。
全国学力テストについて、コンパクトにまとめられた本。
★★★★☆
2007年に約半世紀ぶりに実施された全国学力テスト。
大阪府の学力向上に研究者の立場からサポートしてきた筆者による
その功罪がコンパクトにまとめられて、論じられています。
戦後直後の学力低下論を受けて実施された昔の学力テストとの異同、
2007、2008年の学力テストの内容とその結果、
全国学力テストに似た試験を実施しているイングランドと
同国でありながら異なる施策をとるスコットランドの比較、
全国学力テストの必要性を改めて考える、という構成です。
きわめてコンパクトにまとまり、わかりやすい本でした。
著者の、大阪府の教育委員会のサポートをしてきた立場から
学力テストの結果公表については、特に詳しく述べられています。
一般保護者あるいは子どもとしては、個別の学校の成績結果は
そこに通う子どもたちの学力の優劣という以上に、
学習態度を含む学習環境が整っているかと目安になる気がして気になるのですが
長期的全体的な計画を立てる行政サイドとしては、
教師の士気に関わるなど、別の観点から考えているのがわかります。
また全国学力テストの実施を毎年ではなく減らし、
テストにかかる費用70億円(!)を、授業のサポートなどに使用すべきという
提言なども論じられています。
著者の立場が明らかにされた上で、さまざまな視点も述べられ
コンパクトにまとめられた本で、基本の書としてよかったです。