ハイドン、短調交響曲を堪能する
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ハイドンの107つの交響曲には短調作品が11ありますが、そのうち6つが1766年から73年の時期に集中しています(いわゆる芸術・文化の潮流としての「疾風怒涛期」に数年先立ちますが、その特徴をハイドンがいわば先取りしているような作品群が生み出された時期としてこの時期の作品を「疾風怒涛期の交響曲」と呼びます)。そのうちの3曲をカップリングしたのがこのディスクです。
モーツァルトの作品で、例えばディヴェルティメント ニ長調(モーツァルト:ディヴェルティメント集)のように、極めて斬新で時に過激とも思える表現をするコープマンですが、このCDではむしろ衒いのない真摯な表現に徹しています。その結果、この時期のハイドンの心の奥の変化を示すといわれる短調作品の悲しみがより引き立てられています。特に、第44番ホ短調《哀悼》の第3楽章アダージョはハイドンが生前、自らの葬儀での演奏を希望したほど作者本人のお気に入りであったということですが、それが良く分かる高貴で静けさの溢れる名演となっています。単発のディスクでこの時期のまとまった演奏を聞くことのできるものが少ない中で、貴重な一枚だと思います。