コロラド州レッド・ロックスの円形劇場の威容を背景にしたこのコンサートは、スティーヴィー・ニックスがフリートウッド・マック脱退後の1987年に開いたもので、まさしくロックン・ロール・キャバレーと言えそうな趣向だ。バックを担当するバンドはなかなかの大所帯で、型どおりのアレンジながら、芸の細かいところを見せる。ギターに神出鬼没のセッション・マンことワディ・ワクテル(ジャクソン・ブラウン、キース・リチャーズとの共演暦あり)、ドラムスにリック・マロッタ、キーボードにムード・メイカーのジェイ・ウィンディングという布陣だ。ニックスの物憂いナイト・クラブ風ボーカルは、ここに収められた9曲を懸命に盛り立てている。ただ、懸命ではあっても、必ずしも興味を引かれるとは限らない。致命的に欠けているのは、フリートウッド・マックのような本物のバンドが持つ、得がたいマジックだ。それがあればこそ、ニックスは「よい魔女」的な芝居がかった魅力を発揮できるし、イキのいいロック・チューンとバンド・メンバーたちのノリが相乗効果を生むことになるというのに。それにしても、このようなスター性重視のステージを経験した以上、リンゼイ・バッキンガムの君臨する騒々しい宮殿の片隅にニックスが満足して腰を落ち着けることはなさそうである。 今回、ニックスは新味にとぼしい演出を乗り切らなければならなかった。この問題は、ニックスの意欲をそぐことはなかったが、彼女の芸術的才能を見えづらくし、ナイト・クラブの自己満足的な歌謡ショーみたいな体裁を生んでしまうという結果を招いた。ハイライトとして挙げられるのは、盟友トム・ペティの「I Need to Know」の威勢のいいカバー、ブルージーな「Talk to Me」、感動的な「Has Anyone Ever Written Anything for You」あたり。「Beauty and the Beast」の演奏中にニックスとミック・フリートウッド(彼は数か所でパーカッションを担当)のスチール写真が被さるのは気恥ずかしいが、何について歌ったチューンなのかよく分かる。アンコール曲「Edge of Seventeen」ではピーター・フランプトンが登場するほか、観客席からハジロバトの群れが放たれる。その中の1羽はニックスの掌に止まり、しばらく翼を休めるのだ。ああ、ロック界の白雪姫ここにあり。(Tom Keogh, Amazon.com)