まず題名の「ブランメル閣下」で引きそうになるし、表紙の肖像もかなりイメージを損なう。そう、この手の必ずしも史実だけで事足りる訳では無い伝記(?)は、読者に伝えるイメージを如何に喚起するかが眼目では無いでしょうか。誤解を恐れずに書けば、人物を再創造することが要求されると思います。作者は、ダンディものを何冊か物しているようですが、本書は、どちらかというと当時(19世紀の初頭)の社会や風習等の周辺の史実という勉強にはなるけれど、ブランメル自身に想像を羽ばたかせたくなる欲望を、余り刺激してこないという点で、物足りなさが残ります。
当Amazonで‘ダンディズム’で検索すると見つかる、生田耕作著の文庫本の方が、活き活きとブランメルを髣髴させる点で、むしろお勧め。
世俗を眼中に置かない伊達者の書名に「閣下」を入れたり、写真など無い時代の霧に霞む伝説的人物を語るのに、冒頭で触れた不適切な肖像画を表紙に使うのは、自己矛盾だと考える見識を持つのが、作者なり出版社なりのダンディズムではないかと思い至ると、本書の評価も自ずから決まるのが道理でしょう。