黄金コンビによる『劇画』の傑作
★★★★★
関川夏央、谷口ジローの黄金コンビによる『劇画』の傑作。
物語の設定、谷口ジローの描く劇画的な絵、登場人物のセリフが70年代の濃厚な雰囲気を漂わせている。どちらが先かわからないが劇画版「探偵物語」的な作品である。
主人公深町丈太郎は私立探偵である。せこく意地汚いが、別れた妻と娘を忘れることのできない、どこか憎めないところのある、とぼけたちょっと優しい中年である。
彼を取り囲む人物も一筋縄でいかない。ヤクザの黒崎は哲学的だし、刑事の後藤田は小悪党である。
物語は深町がまきこまれる(あるいは自ら進んで飛び込んだ)事件を中心に展開する人間の非喜劇である。
この頃の谷口ジローの絵は現在とは違い、人物の線も太く劇画的であり、背景も今ほど丁寧に書き込まれていない。背景の中に人物が溶け込んでいるかのような現在の画風と違い、人物が絵の中心である。
彼らのコンビによる「坊ちゃんの時代」は文芸的雰囲気の傑作であるが、この作品は『劇画』の傑作である。この作品が最初に描かれてからもう25年以上が経っている。年老いた深町丈太郎も見てみたいものだ。