世界不況でイスラム金融が改めて注目
★★★★★
世界不況になってからイスラム金融が再注目されているようだ。本書は非常に分かりやすくイスラム金融の入門書としては最適。一番のポイントは利子をつけない金融がなぜ発展したのかというところだが、複雑なイスラム金融商品やイスラム金融を振興する各国の取り組みなども紹介されている。
イスラム金融道
★★★★☆
コーランでは「金銭の使用について利子を課すこと」を禁じているため
イスラム諸国では、利子という形式を避けた金融取引が盛んになっている。
これまで、イスラム諸国のオイルマネー=「投資家」としかみなされていなかったのだが、
現在はイスラム金融により、投資を呼び込む「金融センター」としての存在感が増している。
イスラム金融が急速に発展している理由としては
(1)ムスリムの人口増加。
(全世界で約15億7千万人、世界人口の約25%)
(2)原油の国際価格の急騰
(3)9.11事件以降のアメリカが一部のイスラム諸国の金融資産凍結を行ったこと。
等々を挙げている。
イスラム金融のスキーム、各国別のイスラム金融事情について、丁寧かつ分かりやすく
述べられており、格好の入門書となっていると思う。
イスラム金融の入門としては最適良いが、今一歩深みがほしかった
★★★★☆
本書は、イスラム金融に初めて触れるヒト、もしくはどこかで聞いたこととかあって、何となく興味あるけど、イスラムチックな専門用語とかが出来ててイマイチ取っつきにくいな、というヒトたちお奨めです。本書は、イスラム金融とは何かを簡易に説明しながら、イスラム諸国がそれぞれどのようにイスラム金融を取り入れ、各国家経済に浸透させようとしているか、現状では発展途上国/地域といわれそうな処でさえも、イスラム金融を大きな飛び道具として、大躍進する可能性を述べている。
イスラム金融とは、イスラム教の戒律シャーリアの趣旨に矛盾しない金融の仕組みを指す(??)と思われるが、その最大の特徴は「金利」という概念が否定されいることである。よって金利を稼ぐビジネスはイスラム金融ではない。ではどうやって稼ぐのか。それは、銀行が、時として商社(=物品売買の仲介者となり販売マージンを稼ぐ)、リース会社(=長期的に賃貸借をし、リース料を稼ぐ)、投資銀行(=クチは出さないベンチャーキャピタリスト)、投資家(=クチも出す共同経営者)となり、それぞれ事業収益を投資家と分け合って収益を稼ぐのだそうだ。詳しくは本書に譲るが、イスラム教徒の人口及び人口増加率などを考慮すると、イスラム金融の今後のポテンシャルはもしかすると世界有数のものがあるのかもしれないと、本書を読んで思った。アメリカ発の金融危機が日本や主要経済大国を直撃する現在、西南アジア、東南アジアも決して安泰とは言えないが、アメリカや日本の回復が遅れるほどに、イスラム金融のプレゼンスは日増しに増大するのではないか。
本書の弱点は、基本書が故の宿命なのかもしれないが、内容が表面的な事実関係の時系列的な追跡に終始し、さほど濃いとは言えず、金融ビジネスや商社ビジネスの経験のある者にとっては、要するにそういうことか、という感想しか残らないことだ。また、書かれている情報、データが、サブプライムの深刻化以前のものばかりであるため、「今はどうなっている??」という疑問が少なからず湧いてくる。そういう意味から考えても本書の続編を望みたいところだ。また本書執筆にあたり、著者はどれほどイスラム金融の本場の国や地域に足を運んだのだろうか。文章、構成などは分かりやすかったが、全体として迫力というかキレなどを感じさせないタッチだった。「エコノミスト」か「東洋経済」の特集を切り貼りした学生のレポートのような雰囲気も感じた。その点、大前研一氏のいわゆる中国三部作、ロシア、東欧関連作品に比べると、迫力が全然劣るのが残念。テーマが斬新で、これから伸びる分野と思われるだけに余計にそう思う。また、手頃な入門書も現在ではまだ少ないので、本来ならば本書で「ガッツリ」読者をつかんで、イスラム金融=門倉というブランドを作り上げてほしかった。
続編が出たらすぐに読んでみたいところだ。内容の深化とイスラム金融の根底的な動きにたいするキレのあるインサイトを次回に期待したい。
簡にして要を得た入門書
★★★★★
本書は、現代人類にとっての希望の星のひとつであるイスラーム銀行についての、簡にして要を得た入門書です。万人におすすめできます。
現代社会においては忘れ去られていますが、イスラームのみならず伝統的諸宗教の精神的権威者たちは利子の害毒性をいち早く認識し明確に断罪していました。(例えば聖トマス・アクィナス「神学大全」第二ー二部第七十八問題参照。英訳はネット上で読めます。)そしてその結果、各人の生存基盤と精神的自由を脅かさないような正常な経済秩序が少なくとも一部の地域・時代においては成立していました。(例えばヒレア・べロック「奴隷の国家」を参照。邦訳あり。)
しかるに、そのような伝統的精神からの逸脱、とりわけプロテスタンティズムの勃興を主たる契機として、正常な経済秩序は破壊され、利子に基づく異常な収奪経済システムがヨーロッパから全世界的規模に拡大してしまったのです。(Hilaire Belloc,The Crisis of Civilization(TAN)を参照。)そして今やこのシステムによってもたらされる危機的状況は大部分の人類にとって耐え難いものとなりつつあります。
しかし、ムハンマド・バーキルッ=サドルなどの理論的努力によって、伝統的精神に則って利子を否定するイスラム銀行が登場し、この濁世の最終的局面において台頭してきたことはまことに天佑と言うべきもので、この潮流が十分に発展すれば、世界的規模での経済秩序の再正常化さえ夢ではありません。(それまでこの濁世がもつかどうかは、また別の問題ですが)
本書を読まれた後は、ムハンマド・バーキルッ=サドル「イスラーム経済論」(未知谷)などの著作に進まれることを強くお勧めします。
制度の解説としてはとてもよいです
★★★☆☆
<アメリカ型のグローバル資本主義のもとでは、マネーが現実の経済活動を離れて暴走してしまうおそれがある。そして、膨れ上がったマネーは、バブルの発生と崩壊を通じて、あるいは物価の高騰を通じて(モノに対してマネーの量が増えると、マネーの価値が下がってモノの値段があがる)、現実の経済活動に悪影響を及ぼす凶器になるのだ。
その点、イスラム教の教えに従う「イスラム金融」では、マネーと現実の経済活動が密接に結びついているので、グローバル資本主義のようにマネーだけが一人歩きしていくようなことにはならない。>(p.216)
ほんとかな。イスラムでは、金利つきの取引が禁止されている。どんな商売も、何らかの規制があるところではなかなか発達しない。ところが、最近お金がじゃぶじゃぶ余ってしょうがないので(うらやましいね)、規制という蓋を押し上げる圧力が激しくなって、イスラム法を侵さない新金融商品がたくさんできてきた、ということではないかと思う。別に「グローバル資本主義」(これって何?)に対抗するなんて誰も思ってないでしょ。別に、イスラム(主に産油国)であまったお金はメリルリンチを買ったりシティグループを買ったりするのにも使われているしね。あまりに米経済の調子が悪いので、イスラム圏内で使いましょう、ということでは。
ということで、大局観では疑問を抱く箇所もあるが、個々のイスラムの制度解説はかなり参考になる一冊。よい入門書でしょう。