壁を把握すること
★★★★★
DNAは生命の設計図という言葉をそのまま受け入れていましたが、「建設資材を積み上げただけ」という著者の指摘に納得。新たに「謎」が生まれました。
このように生命の成り立ちや構造、機能などの解明に立ちはだかる「壁」の存在を明らかにし、主として生化学的アプローチからの検証や仮説をわかり易く伝えてくれる本です。科学に限らず、実生活でも「壁」=「問題点」を把握しなければ解決ができないのは同様で、本書で示された謎への理解とともに思考トレーニングにもなります。
が、問題の本質は未知である筈の研究成果を事前に提出しなければ研究費が出ないという制度にあるという指摘、これもある種の「壁」であることが理解できました。
なお、個人的にはストレスとプラセボ効果が表裏一体であるという仮説がとても斬新で説得力があると感じました。
まだはっきりしないこと
★★★★☆
医学が進歩していても、
いまだにはっきりと説明できないことがある。
それぞれの謎について、
いろいろな仮説は存在し、
中には解決していると感じるものも
あるかもしれない。
ただ現状では、それらの仮説は
完全には証明されていないのだと思う。
現代の医学研究の一端を垣間見ることが出来る書
★★★★★
筆者のライフワークである筋肉の動きでは高度な専門家レベルの内容を展開する一方で、偽薬を与えれた患者でも40%ぐらいは症状が治まるというブラセボ効果や、暗記物は寝る前に行うのがよいという理屈の説明など、一般の人にとっても興味あるわかりやすい内容もあり、全体としてとても興味深いものでした。
鍼、灸など本来日本で発展してもよいはずの学術的研究が欧米に遅れをとっていることや、学問的研究と会社の営利事業が競合していることも明らかにしており、日本の医学研究者に対する叱咤激励も感じ取れます。
興味喚起本
★★★★☆
我々が日頃から身体に関して不思議に思っているようなことを7つ選び,学者・研究者の立場で解説した非常にまじめな本です。
選ばれた7つの謎自体は,「確かに不思議」と思えるもので,興味を持ちながら読めるのですが,トピックごとに説明しているレベルが
相当異なります。 例えば,鍼灸の効果については,あまりにも説明が簡単で,科学音痴の私が読んでも全く物足りないと思う内容ですが,
筋肉の謎については,ご自分のご専門だけあり,相当なレベルまでわかり易く書かれています。気がつけば,物足りなかったトピックに
ついては,詳しい本を買ってしまったりしていますので,問題提起,興味喚起という意味では効果ありということですね。
世界的な研究者によって書かれた、貴重な医学入門書
★★★★★
この本の表紙のデザインに引かれて購入したところ、内容の面白さに、思わず一気に読んでしまった。本書は我々にとって身近な「針灸」効果の謎に始まり、以下静磁場、睡眠物質、精神的ストレス、筋肉の収縮、記憶の実体、遺伝情報発現などの謎が解説されてゆく。いずれの章も、現在巷に氾濫している入門書とは全く異なり、筆者の歯切れの良い筆により、これらの謎が謎であり続ける理由が指摘されてゆく。このため、一見ばらばらで統一をとりにくい問題を扱いながら、本書を貫く著者の主張が浮かびあがってくる。これは、みずからの力で自然科学を生み出すことなく、欧米からの学問を輸入してこと足れりとした、我が国の宿阿にたいする批判である。筆者の鋭い筆致から考えて、この人は単なる解説者ではなく、一流の研究者なのではなかろうか、と思っていると、本書の第五章、筋肉の謎でこれが明らかになる。筆者は現在もこの研究分野重要な貢献をしている世界的な研究者だったのだ。この章の、筋収縮の仕組みが偉大な研究者たちによって解明されてゆく過程や、これに伴って起こった悲劇などは、世界的な研究者である筆者にしか書き得なかった本書の白眉である。
本書の他の章も、単に数々の謎を興味深く説明するばかりでなく、睡眠物質の謎については、研究のスタートとなる仮設に鋭い批判が加えられており、遺伝子情報の発現については、これまで無視されてきた細胞質の場としての役割が強調されている。また、静磁場の謎では、筆者が磁気治療具メーカーからの依頼でおこなった興味深い研究が紹介されている。
本書は一般の読者にとって身近な平易に説明する優れた一般向けの入門書であるとともに、現役の研究者あるいは研究者を志望する若い読者にとって多くのものを与えてくれる必読の書である。