物理・化学・生物の3分野にまたがる遥かなる壮大なストーリー。
★★★★☆
生体電気信号(いわゆる「神経の興奮」)実体解明への150年の道のりを、過去から現在までの時間軸に沿って詳しく解説している本。テンポ良く話は進んでいくが、内容的にかなりのボリュームがあり、充分過ぎるほど読み応えがある。文章はカタめ。
筋肉の収縮の話に始まり、実験装置・測定技術の開発、細胞の構造、電解質イオン、イオンチャンネル、膜電位、電池、電子素子、電気回路、デジタル信号にアナログ信号、フグ毒にクモ毒、ヤリイカの巨大神経、神経伝達物質、抑制性シナプス、シナプス結合の可塑性、発電魚、ニューラルネットワーク、日本人研究者の活躍と裏話…。ありとあらゆる知識を総動員して、生体電気信号の謎を一歩一歩解いていく。
面白い上、良い本だとも思うが、ちょっと難しい。高校理科の科目で言えば、物理・化学・生物の3分野にまたがる遥かなる壮大なストーリー。必要な知識はその都度解説されるが、せめて中学理科くらいは復習してから読み始めれば良かったと思う。
独創の系譜
★★★★★
「進化しすぎた脳」を読んでから、
積読していた本書を取り出して読みました。
「進化しすぎた…」ではさらっと書いてある
神経細胞の情報伝達メカニズムが明らかに
されてきた過程を詳しく、分かりやすく
解説されています。
生物をきちんと習ったことがないのできちんと
判断できないのですが、内容は結構深く感じました。
エレクトロニクスがまだそれほど発達していない時代
の研究者たちの独創性に満ちた実験は、
非常に刺激的です。
著者の長年の講義経験が随所に生かされた
非常に分かりやすい記述ですが、
ちょっと数式が出てくるので、純粋に文系の人には
少し難しいかもしれません。
「ここは読み飛ばしてください」と前置きされても、
そこを本当に読み飛ばしてまで通読したくは
なくなることが、結構多いですからね。
ただ、本書の場合は、本当に読み飛ばしても
OKだと思いますが。
電気生理学のメインストリーム:最良の入門書
★★★★★
電気生理学のメインストリーム:最良の入門書
ある分野について学ぶ時に、その分野が発展してきた順番に学んでいくという方法は有効だ。中には今では否定されている学説もあるが、その学説がどのようにして反駁されたのかを知ることは、今の説の「正しさ」を知り、将来を展望する上でも大切なことだろう。電気生理の黎明期から今日に至る発展のメインストリームを、あくまで実験に注目しながら解説する本書は、この分野の教科書として最良だと信じる。また、偉大な先人達についてのエピソードも豊富で、科学が産まれた瞬間についての想像を大いに掻き立てられた。
以下に、本書の他の良い点を列挙する。
・生体現象の基盤となる基礎物理についても、わかりやすい説明をしている。
・模式図が良い。簡明でかつ、実際の実験を経験した著者ならではリアルさが適度に盛り込まれている。
・説明が簡単すぎない。難しすぎない。今の中高の教科書を
見ると思うのだが、簡単過ぎる説明はかえって解りにくい。
きちんと原理まで説明することで、理解がむしろ簡単になる
ことは多いのだ。杉先生はある大学の文系学生の為の講義を
長年されているそうだが、その経験が随所に生かされている。
・ご本人に交流のあったカッツや、後書きによるとやはり生理学
者であられたお父上からお聞きになったという加藤や田崎らの
研究についての記載が、正確でかつ生き生きとしている。
古い実験系についての記載の正確さは、著者が幼少時にお父
上に見せてもらった経験によるところも大きいようだ。その
点で電気生理が生まれ、発展した時期に生きた杉親子二代に
よって本書は成されたといえる。
・カネマツ研究所や、ともすれば埋もれてしまいかねない内外
の優れた研究業績についても、バランス良く紹介されている。