『ガンジス河でバタフライ』で鮮烈デビュー、ひとり旅をこよなく愛する、たかのてるこの痛快紀行エッセイ第2弾。持ち前の行動力で、周りのみんなを幸せにしてしまう彼女が、モロッコの魅力にとりつかれながら、旅を通して成長していく姿が存分に味わえる。旅を続けるほどに雪だるま式に増えていく出会いや別れ、「偶然」が作る旅の思い出を大切にする著者の世界観が随所に盛り込まれている。
モロッコへ発つ前、スペインで偶然に高校時代の同級生と出会い、彼と行動を共にし、初めて知った「正しい観光」のおもしろさ。熱血スコットランド人によるスパルタスキー教室。ひとりきりで迎えるはずが、現地の人が大合唱で祝福してくれたバースデー。
モロッコではさらに刺激的な出来事が起こる。地元の人の制止を振り切り、現地で知り合った3人でサハラ砂漠徒歩ツアーを断行。イスラムの人たちの人生の機微にふれようと、毎日、日の出から日没までいっさいの飲食を断つラマダーンも体験した。そして、マラケシュの町で知り合ったベルベル人の若者の実家で、彼の家族に囲まれながら生活を送るうちに…。
さまざまな「事件」に遭遇しながら、極限の時のなかで知る人々のやさしさ。日々の暮らしから解き放たれ、あるのは自分の体とリュックだけという身軽さが、彼女の心をよりシンプルにさせる。旅の中で、一期一会的な出会いを何度も重ねるうちに、次々と変わってしまうモノではない、確かなモノを実感していく。
著者は言う。「…こんな旅、もうできないだろうなとつくづく思います。…なんにしても、思い入れの深い、今も私に影響を与え続けている旅です」。(石井和人)