ナイフ1つでさまざまなミイラの謎を解き明かしていく病理学者のアウフダーハイド、古代の感染症や寄生虫の研究に挑むラインハード、毛髪から麻薬の使用を証明しようとし、物議をかもしたバラバノーヴァ、東西文明の交流のヒントとなるチェルチェン人の研究に生涯をささげるメイアー、フィリッポス2世の顔の復元も手掛けたという医療アーティスト、ニーヴの力を借り、オランダの沼地から発見された「イデ娘」の顔を復元したファン・デル・サンデン…。魅力あふれる研究のエピソードからは、各人の情熱と興奮が伝わってくる。
ひと口にミイラと言っても、身分の高い者、低い者、幼い者、年老いた者、天寿をまっとうした者、殺されたものなど、さまざまである。研究者たちはこうしたミイラの横顔を、皮膚や爪、血液、毛髪などを分析することにより解き明かしていく。読み終えるころには、読者のなかにもミイラを1人の人間として認め、愛しむ気持ちが芽生えていることだろう。
はるか古代に思いをはせ、じっくりと味わいながら読み進めたい、そんな1冊である。(土井英司)